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今一度想う水俣病 石牟礼(いしむれ)道子の『苦界浄土』

今月に入り、この石牟礼道子という名前を何度目にしただろう。
始まりはnoteでフォローさせていただいている"たいたけさん"の4回に渡る記事。
そして日本経済新聞の土曜日の連載であるノンフィクション作家梯久美子さんの石牟礼道子の生涯を、多大に影響を受けた父の存在から紹介してあるのを読んだ。(連載中)
そして今日、26日付け聖教新聞で作家村上政彦さんの「ぶら~り文学の旅」で紹介されている石牟礼道子さんの『苦海浄土』だ。

これは偶然でも何でもなく、調べたらなんと1月24日は「水俣の日」だった。
この「水俣の日」これは世間一般に通用するものではなく、創価学会が定めた日だ。

「今まで水俣にいて考えるかぎり、宗教も力を持ちませんでした。創価学会のほかは、患者さんに係わることができなかった」。4年前亡なくなった石牟礼道子さんが残した言葉である。(『石牟礼道子対談集 魂たましいの言葉を紡つむぐ』河出書房新社)

当時被害に遭われた方々は人権が無くなるほどの苦しみと工業排水を流す企業、また国との壮絶な戦いを強いられて来ただろう。
その思いに寄り添えた石牟礼道子さんの著書『苦海浄土』。それを紹介する村上政彦さんの記事全文を記載する。
  
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本を手にして想像の旅に出よう。用意するのは一枚の日本地図。そして今日は、石牟礼道子の『苦海浄土 わが水俣病』です。
  
 「魚は天のくれらすもんでござす。天のくれらすもんを、ただで、わが要ると思うしことって、その日を暮らす。
 これより上の栄華のどこにゆけばあろうかい」
 不知火海の漁師が語るこの栄華を、水俣病は滅ぼしました。水俣病とは、熊本県水俣市の新日本窒素肥料水俣工場の廃液に含まれるメチル水銀化合物を原因とする病です。
  
 海に混じったメチル水銀化合物を魚介類が摂取し、それを食べた人間や動物が発症する中毒性中枢神経疾患をいいます。
  
 本作の冒頭を引きます。
 「年に一度か二度、台風でもやって来ぬかぎり、波立つこともない小さな入江を囲んで、湯堂部落がある。
 湯堂湾は、こそばゆいまぶたのようなさざ波の上に、小さな舟や鰯籠などを浮かべていた。子どもたちは真っ裸で、舟から舟へ飛び移ったり、海の中にどぼんと落ち込んでみたりして、遊ぶのだった」
 このような穏やかな海が、日本で初の公害ともいわれる水俣病に襲われたのです。作者の石牟礼道子は、土地の人々の異変を見過ごすことなく、彼らの声に耳を傾け、文章に残しました。
  
 副題に「わが水俣病」とあるように、彼女自身はこの病に罹患しなかったものの、悲惨な出来事をおのれの身の上に引き受け、言葉を持たない人のために、語り始めたのです。
 当初、本作はノンフィクションと受け止められ、大宅壮一賞の対象になったのですが、作者は辞退しました。それは水俣病の人々への配慮ももちろんあったでしょうが、この作品の成り立ちとも関わっているように思います。
  
 『苦海浄土』という作品の山場は「ゆき女きき書」と「天の魚」の章でしょう。両章とも聞き書きの体裁で、水俣病の患者や家族の言葉で語られるのですが、実は、これは記録ではないのです。作者は「あの人が心の中で言っていることを文字にすると、ああなるんだもの」と語っています。石牟礼道子は、患者や家族の内面に深く入り込み、その言葉にならぬ言葉を、私たちにも理解できる言葉にしたのです。
  
 その言葉は、透明な哀しみをたたえているとともに、詩的な美しさも併せ持っています。これが『苦海浄土』という作品の魅力でしょう。
 例えば、杢太郎という少年の患者の世話をする祖父の言葉――「この子ば葬ってから、ひとつの穴に、わしどもが後から入って、抱いてやろうごだるとばい」「あねさん、この杢のやつこそ仏さんでござす」。
  
 『苦界浄土』は、水俣病の単なる記録ではなく、いのちというものが、どういうものなのかを表現した文学になり得ています。
  

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もしこの作品が気になるならばたいたけさんの記事を読んで頂きたい。
作品の要約をされていて読みやすい。
第一回 https://note.com/taitake/n/n398c37e84b7b
第二回 https://note.com/taitake/n/naf19d8f81837
第三回 https://note.com/taitake/n/n81a1a28b4dc0
第四回 https://note.com/taitake/n/n61b021825b31

またさらに石牟礼道子さんに興味が出た人は日経の記事を読む事をオススメする。熊本県には私は行ったことは無いのだが、父方の祖父母が熊本の八代出身だ。そこに書かれている水俣の風景はどこか懐かしい感じがしてとても心地好い。
今、日経の電子版は1月31日まで二ヶ月無料キャンペーンをしている。勿論無料期間中解約OK。

この記事を書くことにより水俣病で亡くなられたたくさんの魂が少しでも安らかになるよう弔いの思いで締める。そしてきちんと『苦界浄土』を読みたい、そういう気持ちになった。

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