First Contact
2007年の12月31日。
20歳、初めてのアメリカ、NYで僕は打ち拉がれていた。
カウントダウン前のタイムズスクエアは見たことのない人波で、荒ぶる騒音の中、足元にはジャンクフードのゴミやビール瓶、肥えたネズミが這いずりまわり、鳩は狂乱にのまれて死んでいく。
その上を世界各国から集まった人々が肩をぶつけて宛もなく歩いている。
熱狂と興奮の渦を少し離れた位置でただ呆然と傍観していた。
その当時、サロンで働く傍ら通信制の美容学校に通い、将来の明確なビジョンなど無いままその日その日を喰い尽くすように過ごしていた僕は、スタイリストとして自信もなく、お金もなく、不透明な将来に気を揉んではそれを忘れるように朝まで遊び、酒を飲み続けてはそんなやさぐれた日々に快楽を求めた。
ある時見た、1枚のポストカードが全てを変えた。
「NY Dry Cut」
聞き慣れないながらも何処かクールに感じたその響き。
当時、付き合っていた女の子がモデルのポストカードを
じっと見つめていた。
「Eiji Salon」
マンハッタンの中心に在るそのサロンについて、僕は漫画喫茶のPCで調べ始めた。
当時はスマフォも無く、貧乏生活なのでPCなどあるわけはなく。
要らねえよ、と突き返したポストカードの文言を記憶の限り思い出しては調べた。
カードを見せられたあの日から、日々先輩に習っているカットや、セミナーで習っているカットのスタイルがどうしても良いと思えなくなってしまっていた。
それ程に、衝撃を受けたポートレイトだった。
半年に1回のスクーリング期間中、課題や授業など、どうでもよくなって頭の中にはどうやってNYに行くか? それ一色に染まった。
当時、格安航空券の取得手段はあったのだろうけど、情弱の僕は大手旅行代理店に直接相談するという、定年のおじさんが夢の世界遺産に行くような方法でチケットを購入した。
たしか、25万円位だったように思う。
地球の裏側に行く価格として、それは安いのか高いのか何もわからないまま死ぬ気で貯めた現金で購入した。
55歳にして今尚現役のプロサッカー選手である三浦知良選手は、17歳の当時片道チケットでブラジルに出発した。
帰りのチケットは自分で稼いで買うという、決意だった。
対して僕は、6日間の往復チケットを購入し、親戚の家に転がり込むといういつ何が起きても安心と安全が確約された渡航方法で初めてのアメリカに向かった。
因みにこの6日間は、美容学校のスクーリングを休める上限ギリギリの日程だった。単位ギリギリで卒業し、国家試験に臨む背水の陣という意味では三浦知良選手の精神世界に負けずとも劣らない、そんな気分だった。
Eiji Salonに突撃し、NY Dry Cutの正体をこの目に焼きつけて
弟子入りして、やがてスタイリストとしてNYで活躍する。
そんな青写真が僕の心を包み込んだ。
人は時々、凄いと思う。
空想だけでスターになり、無敵と化す。
毎日カップラーメンで生活を繋いでいる20歳の青年が、意気揚々と飛行機に乗り込んだのが2007年の冬、成田だった。
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