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【読書感想メモ】傑作『クレヨン王国のパトロール隊長』小学校高学年以降&大人向けの長編童話

『クレヨン王国のパトロール隊長』
著者 福永令三
絵 三木由記子
講談社青い鳥文庫
昭和59年 第一刷

小学生の頃、近所の書店で自分で選んで購入し、一人で読んだ気がします。
ずっと書棚にしまっていましたが、久しぶりに読んでみました。
こちらも文句なしの傑作だと思います。

クレヨン王国はシリーズもので、この本は2作目。私はこの一冊しかもっていなかったような気がします。1作目を知らなくても、この本だけでもじゅうぶん楽しめました。

もしかしたら1作目を読んでいたらもっと楽しめるのかな?
私は読んでいないので分かりません(;'∀')

クレヨンが題材なだけあり、風景描写が実に美しいです。
ストーリーもしっかり考えられていて、とても面白かったです。

ファンタジー要素もありますが、大人が読んでも面白い、むしろ大人向けの面もある物語だなと思います。

【挿絵】
挿絵もとても素敵なのですが、青い鳥文庫なので、白黒で、絵も小さく、数も少ないのが少し残念です。

【あらすじ】
・主人公ノブオ(小学生5年生男子)の家庭の事情
お父さんが再婚したので、新しいお母さんとその連れ子の妹が出来た。
ノブオが妹と二人で道路を歩いている時、ノブオの帽子が風で飛んで、妹が帽子を追いかけて交通事故にあった。
その事故で、妹は目が見えなくなり、車の運転手は亡くなった。
お母さんは、ノブオを連れて亡くなった運転手の家族に謝りに行って許してもらった。
お母さんは妹の世話のために仕事を辞めねばならず、経済的に以前よりも苦しくなる。
その後、お母さんが占いなどに凝るようになり、家庭はギクシャクしはじめた。お母さんは、ノブオの名前に産みの母の名前が一字入っているから縁起が悪いのだと言い、片仮名で表記するようにすすめた。そのため、ノブオはためていたおこずかいで片仮名の名刺を作った。

⇒家庭の事情がすごく詳細に設定されています。
すごく重たくてびっくりしました。
母や、名前を奪われたノブオ=本来の自分ではない世界に生きる主人公。
視力を奪われた妹=色のない世界に生きる妹。
命を奪われた運転手。

・小学校の先生との不和
ノブオの担任の先生はノブオにのみ冷たく当たる。
とにかくお互い反りが合わない。お互いに嫌なところを引き出してしまう。
他の生徒にはとても良い先生で、保護者の信頼も厚い。

⇒何のメタファーでしょうか。
迷い込んだ世界でも乗り越えるべき課題として度々思い出されています。
世の中の不条理を表しているのでしょうか。
それとも自分自身の弱いところや嫌なところ?

・妹が盲目になる前に書いた絵の世界に迷い込む。
妹が貸してくれたクレヨンをなくされて腹が立ったノブオがなくした同級生と喧嘩になり、先生にそんなところに置く方が悪い、謝ったんだから許してあげなさいと言われ、先生の顔に唾をはき、謝ったんだから許してくださいと言って逃げ出す。

迷い込んだ世界で役割を与えられ仕事を担う。色を選べと言われ、黒を選んだところ、パトロール隊長に決定した。

任務そっちのけで亡くなったお母さんを探し、怒られる。
朝日が昇る様子をお母さんに喩えられ(あの朝日のように亡くなったお母さんはいつも子どもを見守っているんだよ)、がっかりしつつも少し納得する。

春の世界に迷い込んで異質さゆえにいじめられるワレモコウ。
ノブオは自分の姿に重ね、援護する。

パトロールを機に、水の精と火の精の戦争に巻き込まれる。
水の精の怪我(顔、精神がなくなる)を治すため、病気を集めている神様の館のミッションに挑み、成功する。
火の精との戦争を終わらせるために、自己犠牲を払う。
火の精の王子と水の精の王女が結婚する。
親が子どものために自己犠牲を払う様子を見て、自分の父の姿と重ねる。
楓?紅葉?と雪ん子、季節柄絶対会えない二人がとうとう出会う。
義理の母と娘がすれ違う様子を見て、一緒にいることが大切だとさとる。
ノブオは功績をたたえられるものの、侵入禁止区域に入った咎で追放され、人間界に帰る。

⇒色のない世界で生きる妹の想像する色のある世界に迷い込む。
本来の自分を取り戻す(母とか名前とか顔とか心とか)。
病を集めている神様と対峙する際に、忍び込むのではなく、嫌なことにも正々堂々と立ち向かう必要性に気づく。
相手の目線で考えることで見えてくることがあると気づく。
許すこと、許されることの大切さに気付く。ノブオが許されることを受け入れることで、許す方の妹の気が休まることもあると学ぶ。
本来相容れないものが融和する世界線があることを学ぶ(水と火、義理の母と娘、春と秋、秋の葉と雪ん子、先生と僕、死んだ母と生きている僕、分かってくれないお父さんと僕、名前を奪う義理の母と僕、失明した妹と事故の原因を作った僕、迷い込んだ世界と元の世界)。

ノブオが人間界に戻る際、追放される形をとることで、迷い込んだ世界が不要になったから捨てるという構図を取らないところが何とも心にくい。控えめに言って天才ですか。

⇒⇒人は過ちをおかしても許されて良いのだ、という主題を伝える壮大なドラマでしょうか。まじで奥が深いお話しです。sha-

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