タバコの効能
タバコを吸い始めたのは、おそらく25歳頃。だいぶ遅い。したがってダサい。
居酒屋で一緒に飲んでいた奴から、何となくマルボロのメンソールをもらってふかしたのがきっかけだった。
それからこっそり買っては家のベランダで吸っていた。25でタバコデビューなんてあまりにも恥ずかしいので周りには隠していた。
それでもだんだん本数が増えていき、隠しきれなくなってきて、ついにここ数年で各方面でバレ始めた。今では開き直って「どーだダサいだろー」とやっている。
本数が増えたことについては、明確な理由がある。
今のバンドのメンバーに喫煙者がいる。俺がこそこそ吸い出してから出会った人なので、彼には隠さず最初から喫煙者として振る舞った。ある日、打ち合わせか何かで喫煙所に行き、一緒にタバコを吸った。それが初めて人と一緒に吸ったタバコだった。
本数が増えた理由、それは、人と一緒に吸うのが楽しかったからだ。
はっきり言って、誰かと一緒に酒を飲んで酔っ払うよりも、一緒にシラフでタバコを吸った方がはるかに楽しい。
何故だろう。遅咲きの俺が今では1日半箱ほど吸うようになったが(この中途半端さもまたダサい)、そこも含めて考えてみた。
経験を振り返り熟考に熟考を重ねた結果、それは酒とタバコには効用に圧倒的な違いがあるからだという結論に達した。
あくまで俺の場合だが、酒とタバコは同じ嗜好品と括られているが、その効能は対極にあると言って良い。
アルコールは、あらゆる感情や欲求を増幅させる。つらい時に飲むと余計につらいし、悲しい時に飲むと泣けてくる。嬉しい時に飲めばテンションも上がりすぎるし、イライラしている時に飲むと爆発しそうになる。
一方、ニコチンはすべての感情や欲求を減退させる。喜びも悲しみも怒りも妬みも嫉みも、一本吸えばため息と煙に溶けて緩和されていく。そしてうっすら気持ち悪くなって、「あー、色々めんどくせえな」に落ち着くのだ。特に怒りを鎮める時には本当に役に立つ。
三大欲求については顕著だ。アルコールが入ると、眠い時は余計に眠くなるし、たらふく食ってるのに腹が減るし、女の子とイチャつきたくなる。一方ニコチンが入ると、眠気は醒めるし(カフェインの何十倍の覚醒効果があるらしい)、うっすら気持ち悪くなるから食欲は減るし、いくらムラムラしていても一本吸うと「人生って」みたいな気分にさせられる。
酒の失敗はよく聞くが、タバコの失敗で聞くのって火の不始末による火事くらいのもんだ。(くらいのもんだじゃ済まされないけど)
自分に甘く、自制心の弱い癖に自己肯定感とプライドが高い俺にとって、強制ダウナー装置「タバコ」と出会ったのは必然だったと言える。
そんなダウナーな気分をリアルタイムで共有できる相手がいるのは、心強いというか、何とも言えない連帯感、いや、絆を感じてしまうのだ。
テキトーに喫煙所に入って、知らないおっさんと目が合って会釈した時、勝手に色々そのおっさんの人生に思いを馳せてエモい気分になるし、絶対向こうも同じ気分になっているはずだ。というか、そう思い込むと余計に心穏やかになる。
喫煙所で興奮している奴はいない。みんなそこそこのトーンで、落ち着いて話しては、ため息ついたりクスクス笑ったりくらいのものだ。
それがとてもありがたい。ハマった一番大きな理由はそこにあると言えるだろう。
言うまでもないが、これは喫煙推奨記事ではない。
だって、やめたいもの。
金無いし。