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パントマイムの神様による知られざる救出劇『沈黙のレジスタンス ~ユダヤ孤児を救った芸術家~』

【個人的な評価】

2021年日本公開映画で面白かった順位:63/179
   ストーリー:★★★★☆
  キャラクター:★★★★☆
      映像:★★★☆☆
      音楽:★★★☆☆
映画館で観るべき:★★★☆☆

【以下の要素が気になれば観てもいいかも】

ヒューマンドラマ
実話ベース
第二次世界大戦
ホロコースト

【あらすじ】

1938年フランス。アーティストとして生きることを夢見るマルセル(ジェシー・アイゼンバーグ)は、昼間は精肉店で働き、夜はキャバレーでパントマイムを披露していた。

第二次世界大戦が激化する中、彼は兄のアラン(フェリックス・モアティ)と従兄弟のジョルジュ(ゲーザ・ルーリグ)、想いを寄せるエマ(クレマンス・ポエジー)と共に、ナチに親を殺されたユダヤ人の子供たち123人の世話をする。

悲しみと緊張に包まれた子供たちにパントマイムで笑顔を取り戻し、彼らと固い絆を結ぶマルセル。だが、ナチの勢力は日に日に増大し、1942年、遂にドイツ軍がフランス全土を占領する。

マルセルは、険しく危険なアルプスの山を越えて、子供たちを安全なスイスへと逃がそうと決意するのだが──。

【感想】

今年日本で公開された3本目のホロコースト系映画です。本作の主人公はマルセル・マルソー。実在した人物で、「パントマイムの神様」と称されるアーティストです。彼の知られざる青年期のレジスタンス活動を描いたのが本作。子供に焦点が当たっているので、子供がいる人はより一層感情移入できそうなお話でした。

<事実に基づく話でありながら映画としても面白い>

けっこう実話ベースの映画って多いんですけど、そういうのって淡々と進んで行くことが多いんですよ。まあ、史実に反しちゃいけないので、そんなにエンタメに寄らせるのも難しいんだとは思いますが。ところが、本作はストーリーに起伏があって映画としても十分に楽しめる内容になっていました。

子供の目の前で両親が無残にも殺される衝撃。ナチスから逃げ惑う恐怖。マルセルと子供たちの触れ合いによる感動。いろんな感情が刺激される点でとても見ごたえがあります。

<マルセルの考え方が尊い>

個人的に今回の映画には、2点印象的だったエピソードがあります。まずはマルセルの"思考の転換"ですね。彼が想いを寄せるエマの妹がナチスに殺され、エマは復讐を誓います。他にも多くのユダヤ人が理不尽に殺されているので、やり返したい気持ちはとても共感できますよね。きっと現実にもナチスに復讐したかったユダヤ人はたくさんいたはずです。

ところが、マルセルは怒りに任せてやり返そうとするエマを諭します。「僕らは子供たちを守るべきだ」と。彼だって、敵に復讐したい気持ちはあったと思うんですよ。でもそれを子供たちを守ることへとシフトさせたんです。やり返したところで、人が死んで終わりですが、子供を守れば、彼らはやがて新しい家族を作り、世代が続いていきます。煮えたぎる怒りを抑え、冷静に未来を見据えていたんですよね。

もしレジスタンスに、ナチスと同等かそれ以上の武力があったのなら、やり返していたかもわかりません。でも、武力で劣る彼らがやるべきことは、真っ向から勝負を挑むことじゃなく、小さな命を未来へとつなげることだったんですよ。仲間が理不尽に殺されているこの状況で、その判断と決断はなかなかできることじゃないなと感じました。

<最上級のサイコパスだったクラウス>

もうひとつの印象に残る部分は、ナチス親衛隊中尉だったクラウス・バルビー(マティアス・シュアヴィクホファー)の存在です。彼は"リヨンの虐殺者"と呼ばれるほど残忍な人物だったらしいですね。ウィキペディアでは、「ヴィシー政権下のリヨンで反独レジスタンスを鎮圧する任務に就いており、8,000人以上を強制移送により死に追いやり、4,000人以上の殺害に関与し、15,000人以上のレジスタンスに拷問を加えた責任者」と記載されていました。映画の中でもその非道っぷりがよく描かれています。「疑わしきは即殺害」と言わんばかりに、騒動を起こした容疑者は全員射殺。エマへの拷問は、彼女自身にではなく、その妹の皮を剥ぐという鬼畜さ。

ところが、そんな彼にも綺麗な奥さんと、生まれたばかりのかわいい赤ちゃんがいるんですよ。。。裏では人を殺しまくっているのに、子供の前では優しい父親。その対比がものすごく怖い。最上級のサイコパスじゃないかって。

<その他>

ホロコーストでは実に150万人以上の子供たちの命が奪われたそうです。ユダヤ人を救った人たちの映画はいろいろありますが、圧倒的に救えなかった命の方が多いですよね。もはや自分が生まれる前の話ではありますが、こういう過去があったということは人として知っておきたいです。


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