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アメリカの闇。疑わしきは徹底的に白でも黒にする国が生んだ悲劇『モーリタニアン 黒塗りの記録』

【個人的な評価】

2021年日本公開映画で面白かった順位:46/238
   ストーリー:★★★★★
  キャラクター:★★★★★
      映像:★★★☆☆
      音楽:★★★☆☆
映画館で観るべき:★★★★☆

【要素】

ヒューマンドラマ
無実の罪
司法
9.11

【元になった出来事や原作・過去作など】

・出来事
 アメリカ同時多発テロ事件(2001)

・人物
 モハメドゥ・ウルド・スラヒ(1970~)

・書籍(手記)
 モハメドゥ・ウルド・スラヒ『グアンタナモ収容所 地獄からの手記』(2015)

【あらすじ】

2005年、弁護士のナンシー・ホランダー(ジョディ・フォスター)は、アフリカのモーリタニア出身であるモハメドゥ・スラヒ(タハール・ラヒム)の弁護を引き受ける。9.11の首謀者の1人として拘束されたが、裁判は一度も開かれていない。彼はキューバのグアンタナモ収容所で地獄のような投獄生活を何年も送っていた。ナンシーは「不当な拘禁」だとしてアメリカ合衆国を訴える。

時を同じくして、テロへの“正義の鉄槌”を望む政府から米軍に、モハメドゥを死刑判決に処せとの命が下り、スチュアート中佐(ベネディクト・カンバーバッチ)が起訴を担当する。真相を明らかにして闘うべく、両サイドから綿密な調査が始まる。

モハメドゥから届く手紙による“証言”の予測不能な展開に引き込まれていくナンシー。ところが、再三の開示請求でようやく政府から届いた機密書類には、百戦錬磨のナンシーさえ愕然とする供述が記されていた──。

【感想】

すでに本になって出版されているため、結末は書いてしまいますのでご注意を。まだ知りたくないよって方は、ここでページをそっ閉じしてください。。。

<怖い国アメリカ>

この映画を観て、アメリカって怖い国だなと思いますね。。。時の大統領はジョージ・W・ブッシュ。9.11の首謀者の1人という容疑で逮捕されたモハメドゥですが、疑心とこじつけによって、無実の人を死刑にしようとしていたアメリカ政府に衝撃でした。

もちろん、アメリカ側の気持ちは理解できますよ。9.11によって罪のない大勢の人々が犠牲になったんですから。しかも、アメリカって自分たちに絶対の自信を持っていそうですよね。売られたケンカは何倍にもして返しそうなイメージもあります。

がしかし、これはあまりにもずさんすぎる話ですよ。ただ「疑わしい」というだけで、きちんとした裏付けをせず、モハメドゥを逮捕。彼は一度も裁判が行われないまま、8年も拘禁されていたんですから。人の人生を何だと思ってるんでしょうかね。

<モハメドゥの味わう恐怖>※ネタバレあり

モハメドゥに関する調書は極秘扱いなんですよね。仮に見れたとしても、ほとんどが黒塗りで、全然中身がわからない状態。普通だったらここでお手上げですよ。それでも、ナンシーとスチュアートはそれぞれ別の立場から調査を進め、やっとのことで、MFR(=Memorandum For Recordの略で、収容所での尋問の記録用覚書のこと)にたどり着くも、そこには驚愕の真実が。。。

資料にはモハメドゥに対して行われた尋問の実態が書かれていたんですよ。それはもう、殴る蹴るがマシに思えるぐらいの精神的嫌がらせの数々です。苦痛を伴う姿勢での静止が20時間、水責め、女性看守との強制性交、睡眠妨害、家族を襲うといった脅迫などなど、明らかに「人を中から壊す」行為。

そんな状態がずーっと続くことに心が折れた彼は、ついにやってもいないことを自白してしまうんですが、そんなものは到底証拠として使えないとし、ようやく裁判までこぎつけます。とはいえ、そこに至るまで実に8年かかってますからね。。。長すぎる。。。ずっと夢見ていた裁判ができるシーンで感極まって涙出ました。

モハメドゥが言うに、彼の国では、警察も信用できないし、政府も腐っています。そんな彼はアメリカが正義と自由の国だと信じていました。ところが、実体はこれですよ。恐怖で彼を支配していたんです。ショックなんてもんじゃなかったでしょうね。。。

<自由の国とは>※ネタバレあり

最終的に彼は裁判で勝つことができたんですけど、オバマ政権に入ってからも、さらに7年も拘留され続けたらしい。。。計15年ぐらいですよね。そのせいで、母親とは再会できないまま、彼女は帰らぬ人となってしまったっていう。。。何の罪もないのに辛すぎませんか、、、?

この映画を観ると、アメリカという国が何なのか、自由の国とは何なのか、考えさせられますね。これじゃ「支配する人が自由にできる国」じゃないですか。アメリカのエンタメは面白いし、日本よりも進んでいる分野も多く、僕も小さい頃から好きですよ、この国は。まだ行ったことはないですけど。でも、メンツを保つことと、そのために白を黒にしようとする執念深さは恐ろしいなと感じますね。一方で、ナンシーたちのように、正義と信念を貫き通し、真っ向から勝負を挑む国民がいることもまた忘れてはならないことだとは思いますけど。

<その他>

ちなみに、本編とはまったく関係ありませんが、マーベルのドクター・ストレンジ役のベネディクト・カンバーバッチと、DCのシャザム役のザッカリー・リーヴァイが出ているので、アメコミ好きは注目ポイントかと思います(笑)


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