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少女の暗い青春を映し出す『THE CROSSING~香港と大陸をまたぐ少女~』

【基本情報】

 原題:过春天
 英題:The Crossing
製作年:2018年
製作国:中国
 配給:チームジョイ

【個人的順位】

鑑賞した2020年日本公開映画ランキング:138/184
 ストーリー:★★★☆☆
キャラクター:★★★☆☆
    映像:★★★☆☆
    音楽:★★★☆☆

【あらすじ】

香港出身の父と中国大陸出身の母を持つ16歳の高校生ペイ(ホアン・ヤオ)は、毎日深圳から香港の高校に通っている。

香港で家庭を持ちながらトラック運転手として働いていた父親ヨン(リウ・カイチー)と、出稼ぎに出ていた母親ラン(ニー・ホンジエ)が出会い、ヨンは愛人としてランと親しくなりペイを授かる。

景気が悪くなると、ランはヨンを香港に残し、ペイを連れて深圳に2人で暮らす。家族がバラバラで孤独なペイにとっての心の拠り所は、親友ジョー(カルメル・タン)と過ごす時間。2人は北海道旅行を夢見て、学校で小遣い稼ぎをしていた。

ある日、ペイは家に帰る途中、香港と深圳の間でスマートフォンの密輸グループに巻き込まれるが、すぐにお金を稼ぐことができると知ると、彼女はお金欲しさにジョーの彼氏ハオ(スン・ヤン)にお願いして密輸団の仲間に入り、危険な裏の仕事に手を染める。

密輸団での仕事をこなしていく内に、ペイは自然とハオと密接な関係になり、ハオは密輸団のリーダーに内緒で、ペイに大きな仕事を持ちかける。

また、ペイとハオが密接な関係にあると気づいたジョーはペイに詰め寄り、二人の関係が崩れていく。

家族、友情、恋愛、そのどれもに隔たりが生じている中で、ペイの人生が大きく動き出す。

【感想】

この映画、まず設定が面白いです。女子高生が運び屋をやるっていう。しかも、しかも、その運ぶブツってのがiPhoneなんですよ。クスリじゃないんだって。

ここらへんの設定を含め、この映画を観る上では、は深圳と香港の事情を知っておかないと、ちょっとわかりづらいと思います。僕も後で調べてなるほどなと思うところがたくさんあったので。現地の人じゃないと共感しづらい部分が多いかもしれません。

まず、ペイの置かれた状況なんですが、僕はきちんとあらすじを読まずに映画を観たので、両親が離婚したと思ってたんですけど、実際はペイは父親の愛人の子供だったっていう。普段映画を観るときは、ネタバレとか先入観を防ぐために、映画を観るときはストーリーすらも読まずに行くんですが、今回に関しては、ちょっと観ておけばよかったなって思いましたね(笑)

で、公式サイトを観れば詳細はわかるのですが、上記の背景にあるのが、1990年代に香港人男性が中国大陸で愛人を作り始めたことらしいんです。当時は香港の方が深圳よりも一人当たりの所得が断然高かったらしく、また深圳の方が不動産も安かったため、父親が愛人を作ってマンションを買って住まわせることが可能だったのではないかということですね。

そして、深圳と香港の関係。隣り合わせの都市ではあるものの、香港はイギリスからの返還後、「一国二制度」を有しているため、同じ国でも扱いが大きく異なるんです。両都市間の移動には、IDやビザが求められ、税関もあり、越境して通学する子供たちを「越境児童」と呼ぶそうです。

特に、この映画の舞台である2015年当時、iPhoneは関税の関係で香港においては割安で購入できたので、それを中国大陸に運び込めば利ザヤで儲けることができたとか。また、ペイ自身は深圳に住んでいながら、香港の永住権を持つため、この密輸において動きやすい人物であったということなんですよ。

これらの事情を知っているのと知らないのとでは、かなり作品の理解に差が出るんじゃないですかね。現地の人はわかるでしょうけど、世界情勢に詳しくない人からすると、間違った認識をしそうですよね。

とはいえ、言ってしまえばこれはペイの青春物語でもあります。父親が香港で、母親が深圳にいるという複雑な家庭環境の下、親友のジョーはメチャクチャ裕福でペイとは格差があったり、ハオとの距離が縮まるとジョーとの関係性に亀裂が入ったり、思春期の女の子が家族・友情・恋愛において"隔たり"を感じながら悪事に手を染めていくのは、非常に興味深い話だと感じました。

外部環境によって人生が歪んでしまうのは邦画でもあると思いますが、この作品の設定はこの国でなければ生じえないものじゃないですか。なので、中国の人からしたら、かなり共感を覚える作品なのではないかと思います。

前提となる知識なしだとちょっとわかりづらい部分もありますけど、暗い青春映画としてはけっこう楽しめると思いました。


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