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安楽死を決意した母親とその家族の在り方が尊い『ブラックバード 家族が家族であるうちに』

【個人的な評価】

2021年日本公開映画で面白かった順位:18/112
   ストーリー:★★★★★
  キャラクター:★★★★★
      映像:★★★☆☆
      音楽:★★★☆☆
映画館で観るべき:★★★★☆

【以下の要素が気になれば観てもいいかも】

ヒューマンドラマ
安楽死
家族の秘密

【あらすじ】

ある週末、医師のポール(サム・ニール)とその妻リリー(スーザン・サランドン)が暮らす海辺の家に娘たちが集まってくる。病気が進行し、次第に体の自由が利かなくなっているリリーは安楽死する決意をしており、家族と最後の時間をいっしょに過ごそうとしていた。

長女ジェニファー(ケイト・ウィンスレット)は、母の決意を受け入れているものの、やはりどこか落ち着かない。家族だけで過ごすはずの週末に、リリーの親友リズ(リンゼイ・ダンカン)がいることにも納得がいかない。

詳しい事情を知らなかった15歳の息子ジョナサン(アンソン・ブーン)も、この訪問の意味を知り、驚きを隠せない。

長らく連絡が取れなかった次女アナ(ミア・ワシコウスカ)も、くっついたり離れたりを繰り返している恋人クリス(ベックス・テイラー=クラウス)と共にやってくるが、姉と違い、母の決意を受け入れられておらず、ジェニファーと衝突を繰り返す。

大きな秘密を共有する家族が共に週末を過ごす中、それぞれが抱えていた秘密も浮かび上がり、ジェニファーとアナの想いは揺れ動き、リリーの決意を覆そうと試みる…。

【感想】

安楽死という議論が巻き起こりそうなテーマの映画ですが、想像以上に面白かったです。

<悲壮感がない雰囲気>

安楽死を決意した母親と過ごす最後の時間、普通だったら悲しみに満ちた暗い内容になりそうなんですが、物語自体はそうとは感じさせない楽しさがあって、まるでこれから旅に出る前の送別会のような感じでした。これは、本人が自ら死を選択したことで、そこに強い意志があるからだと思います。

<抱えていた秘密が暴かれる瞬間が楽しい>

でも、だんだん安楽死を実行に移すタイミングが近づくに従って、些細なことから家族それぞれが抱えている秘密が表に出てくるんですよ。そこで一悶着起きる人間ドラマがメチャクチャ面白いかったです。長女のジェニファーが気づいた父の秘密。次女のアナに起こった真実。孫のジョナサンが密かに抱く夢など。

最後だから気が緩むのか、最後だから言ってしまおうと腹を括れるのか、普段はなかなか言えないことがポロっと出ちゃうのは、この状況ならではじゃないですかね。確かにどうせ明日で死ぬんだからっていうことがわかりきっているならば、もうえいやっ!と言っちゃいたくなる気持ちもわからなくはないです。それほどまでに、"人生の最後"というのは何かパワーを持っているんでしょう。

<意志ある死だからこそ前向きになれる>

先ほども書きましたが、いくら死が決定しているからといって、リリーにネガティブな感情はほとんどありません。むしろ、前向きで誇らしく、力強ささえ感じました。それは自分で選んだ道だからだと思うんですよ。普通、死っていつ来るかわかりませんよね。寿命もわからないし、いつ病気になったり、事故に遭ったりするかわかりませんから。わからないからこそ、人は恐れるし、怯えるんでしょうね。

でも、リリーはそのタイミングを自分で選びました。いつ死ぬかわかっているし、しかも自分で望んだことです「安楽死を決意してから、恐怖はなくなった」と彼女は言うんですが、それによって死が"わかる"、"知っている"という状態が、どれほど人から恐怖を取り除くのかが伝わってきました。

<リリーのファンキーっぷりが笑える>

で、このリリーがまたすんごくキャラしてるんですよね。孫に残す遺産の使い道は「酒と女に散在しな」と言い切るわ、ハッパは「死ぬ前とセックスの前だけ」とアドバイスするわ、長女のへプレゼントに大人のおもちゃをあげるわで、ファンキーすぎます。ホント、ハリウッド映画って家族間でもお構いなしにこういう下ネタをぶっ込んでくるのが好きなところです(笑)

<安楽死は是か非か>

これはあくまでも映画の感想なので、死の在り方について議論する気はありませんが、法的な問題、倫理的な問題を抜きにしたら、個人的には、"生"は自分で選べないからこそ、"死"を選ぶ自由はあってもいいと思っています。ただ、もちろんそれは自殺とは違いますよ。自殺はネガティブな理由を苦に
自ら命を絶ってしまいますが、今回のリリーは事情が異なります。まあ、病気で体の自由が利かなくなり、栄養をチューブで取り込む状態が嫌という想いはあるんですけどね、それを苦に感じて、、、ではなく、そんな生き方をするぐらいなら、元気なうちに自分ができる選択として死を選んだというだけなんですよ。ポジティブ、、、っていう言い方が正しいかはわかりませんが、自分できることを当たり前のようにやったという潔さを感じられるのがよかったですね。

<その他>

昔からずっと活躍している役者さんを観ていると、時の流れを感じることがありますよね。例えば、今回のスーザン・サランドンも、僕の中ではアラフォーの女性の逃避行を描いた『テルマ&ルイーズ』(1991)のイメージが強いですが、今作では、高校生の孫がいる役ですからね。ケイト・ウィンスレットも『タイタニック』(1997)でお金持ちのお嬢様でしたけど、ここでは高校生の子供を持つ普通の主婦です。みんなそれぞれの年齢に合った役で活躍し続けられるのってすごいですよね。

そんな彼女たちが、あえて自ら死を選択した人とその家族の在りようを演じている姿は尊く、興味深く観れる映画なので、これはオススメしたいです。


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