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何者かになりたいがために平気で嘘をついてでも必死に他人にしがみつく女の子の生き様を描いた『猿楽町で会いましょう』

【個人的な評価】

2021年日本公開映画で面白かった順位:51/115
   ストーリー:★★★★☆
  キャラクター:★★★★☆
      映像:★★★☆☆
      音楽:★★★☆☆
映画館で観るべき:★★★☆☆

【以下の要素が気になれば観てもいいかも】

ヒューマンドラマ
ラブストーリー
夢と現実
嘘と本音
セックス
メンヘラ

【あらすじ】

小山田修司(金子大地)は、駆け出しのフリーカメラマン。売り込み先の雑誌編集者の嵩村秋彦(前野健太)からは、「作品にパッションを感じない」と厳しくダメ出しされる。

そんな嵩村に紹介されたのは、インスタグラム用の写真を撮影してくれるカメラマンを探していた、読者モデルの田中ユカ(石川瑠華)だった。

撮影を通して距離を縮めていく2人。しかし、ユカは決して身体を許そうとせず、家にも入れてくれず、微妙な距離感が漂っていた。

そんなある日、以前、小山田が売り込みに行った編集者から仕事の依頼が舞い込んでくる。またとないチャンスに喜ぶ小山田だったが、突然、泣きはらした顔のユカがアパートにやって来る。

打ち合わせに向かおうとしていた小山田に抱きついて「お願い、ひとりにしないで」と懇願するユカ。小山田の中で溜まっていた想いが爆発して、そのまま2人は初めて身体を重ねた。

数日後、小山田は意を決してユカの住むマンションの部屋を訪ねる。ところが、目の前でユカの部屋に入って行く男の姿を目撃してしまう。部屋の中に聞き耳を立てる小山田だったが……。

【感想】

夢を追いかけるフリーカメラマンの男と、何者かになりたくて上京してきた女の、夢と現実と嘘と本音が入り混じった映画でした。人生に思い悩む若者系の映画で、若者の青春を描く松居大悟監督、男女の気持ちの交錯を描く今泉力哉監督の作品の、ちょうど中間にあるような印象を受けましたよ、僕は。

<圧倒的存在感のヒロイン>

若者の抱えるモヤモヤした感情が全面に出ている世界観は邦画でよくあるオーソドックスな感じですが、時間軸がちょっと前後する構成になっています。全部で3章から成り立っているんですが、第1章の裏側が第2章でわかるっていう見せ方が面白いですね。

で、その物語を面白くさせているのが、今作のヒロインである田中ユカです。もう「何なんだこいつは」っていうほどのめんどくささでして。人によって態度を変え、呼吸するように嘘をつき、自分を正当化し、すべてを自分に都合のよい方向へ持っていこうとするんですよ。当然悪びれる様子はありません。個人的には、限りなく「お引き取り願いたい」人種ですね(笑)

ある程度歳を重ねた今なら、「若いときってこういう感じの子いるよね」って微笑ましく感じられなくもないですけど、、、身のまわりにいて巻き込まれたら完全に事故です。

<田中ユカはなぜこうも地雷なのか>

彼女が上記のような人物になった理由なんていうのは、映画の中では語られません。よくあるような「家庭環境が~」みたいな設定もないので。なので、作中で読み取れる部分から考えるに、彼女って空っぽなんですよ。それは自分が一番よくわかっています。そして、上京した理由も特になく、なんとなくキラキラした世界に興味があった程度。なので、強い意志もなければ、頼れる人もいないんですよね。かといって、生活するお金があるわけでもない。でも、寄ってくる人はいるんですよ。だから、だから、そこにすがるしかないんです。嘘をついてでも。誇りを売ってでも。もはや処世術なんですよね、この世界を生きていくための。そうしないと生きていけないから、他人にしがみつくことに必死になるんじゃないかなーって。

確かに、巻き込まれたらめんどくさいことこの上ないと思います。でも、外から見ている分には、興味深い人間性にも思えてくるんですよね。この生きていくための処世術、いや、自己防衛といってもいいかもしれません。まあ、「高みの見物だからそうやって偉そうなこと言えるんだ」って言われたら、「すみません」としか返せないんですけど。

<映画の中に広がる現実>

若者が夢と現実の間で揺れ惑うような映画やドラマって、「がんばったから報われる」とか、「たまたま才能を見つけてもらえる」とか、そういう明るい話が多いと思うんですが、この映画ではそんなお花畑のようなことはありません。逆に、孤独や嫉妬、疑心や絶望といった負の感情にまみれる現実が広がっています。きっとこっちの方が現実に近いと思いますよ。夢や希望なんてそうそう簡単に手に入るものじゃないですから。特に芸能関係のように狭き門の場合は。持って生まれたビジュアルとセンスでほとんど決まってしまうでしょうから。

でも、その綺麗事が一切ない物語に加えて、感情むき出しで体当たりな役者さんたちの演技はものすごく見ごたえありますね。小山田を演じた金子大地さんも、ユカを演じた石川瑠華さんも、あそこまでやるんだって驚きました。

<男目線だと辛いかも>

いやー、自分が付き合っている彼女がこうだったら、相当ショックですよ。よほどの仙人か、もしくは彼女に興味がない人じゃないと、耐えられないんじゃないですかね。男って本能的に縄張り意識が強いのか、自分のものに手を出されると、この上ない嫌悪感を感じますから。

小山田が「彼女が嘘をついているかもしれないんです。でも、なんでそれが許せないんだろう」ってぼやくシーンがあるんですけど、ある意味、彼女のことちゃんと好きなんだなって思いますけどね。ただ、自分が与えている愛と同等かそれ以上を返して欲しいと思うタイプか、他人に期待してしまうタイプの人間ほど、こういう現実は辛いかもしれません。他人は信用しすぎない方がいいのかもしれませんね、この世を楽に生きていくには。精神衛生上(笑)

<その他>

この映画に限りませんが、邦画でちょっと重めの話にするときって、多くの場合「性」が絡んできますよね。男女の肉欲。こういうのって、その国の文化が強く影響している気がしますねー。


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