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いつ殺されるかわからない中で夢を追う強さが鮮明に残る『パピチャ 未来へのランウェイ』

【基本情報】

 原題:Papicha
製作年:2019年
製作国:フランス、アルジェリア、ベルギー、カタール合作
 配給:クロックワークス

【個人的順位】

鑑賞した2020年日本公開映画ランキング:67/160
 ストーリー:★★★★☆
キャラクター:★★★★☆
    映像:★★★☆☆
    音楽:★★★☆☆

【あらすじ】

1990年代、アルジェリア。ファッションデザインに夢中な大学生のネジュマ(リナ・クードリ)はナイトクラブのトイレで自作のドレスを販売していた。

彼女の夢は、世界中の女性の服を作るデザイナーになること。しかし、武装した過激派のイスラム主義勢力の台頭によってテロが頻発する首都アルジェでは、ヒジャブの着用を強制するポスターがいたるところに貼られるように。

それに従うことを拒むネジュマはある悲劇的な出来事をきっかけに、自分たちの自由と未来のため、命がけでファッションショーを行うことを決意する。

【感想】

これはもうなんというか、自分が生きている世界とは違いすぎて、いろいろ衝撃的でした。。。「パピチャ」ってアルジェリアのスラングで、「愉快で魅力的で常識にとらわれない自由な女性」という意味を持つらしいんですが、まさにタイトルを絵に描いたような少女が主人公です。

1990年代のアルジェリアはかなり治安が悪く、政府とイスラム武力勢力の衝突が繰り返し行われており、過激派組織によるテロ活動も頻繁に起こっていたそうですね。社会にもイスラム原理主義の思想が蔓延していて、特に女性に対する弾圧がすごかった様子。

「女性はヒジャブを来て家でおとなしくしているべき」という考えも強く、将来ファッションデザイナーを目指すネジュマも散々な目に遭うんですが、あきらめずにお手製のファッションショーを完遂するために前進し続ける姿は印象的でした。

しょっちゅう悲しいことが起きる映画で、平和な世の中なら普通にできそうなこともここではすべてが命がけ。10代の少女が常に死と隣り合わせで、これでもかってぐらい辛い立場に立たされたら、普通なら「一旦今はやめとこうかな」となりそうなところを、今しかないんだという勢いで夢を実現させようとする意志と覚悟の強さは、老若男女問わず鮮明に映るでしょう。時に仲間に支えられながら、幾度となく立ち上がる彼女の姿は一見の価値アリだと思いました。

日本に生まれ育つ身からしたら、こんな政治的・宗教的背景は理不尽そのものと言いたくもなりますが、当時のアルジェリアの様子を知る上でも勉強になるに違いないです。『娘は戦場で生まれた』もそうでしたが、こういう映画を観ると、日本ってなんて平和なんだろうって思いますね。

とにかくネジュマの服に対する思い入れは相当強くて、ヒジャブ以外のアメリカっぽい服装を「尻軽みたいだ」とバカにする友達の彼氏に対しても、「悪いのは服装ではなく、そういう偏見だ」と言い放つところなんかは一番心に残りました。このセリフって他のあらゆることにも言えそうだなと。

あと、観ていて思ったのですが、この映画って常にカメラが動いていて、固定カメラでのシーンがほとんどないんですよ。それでいてアップが多い。個人的には、正直ちょっと観づらさを感じたりもしたんですが、「不安定な状況の中で生きる本能」を表現するための演出だそうですね。

今年は女性が活躍する映画がものすごく多い気がしますけど、今後もそういう作品は増えていくと思います。僕は強い女性は好きですし、面白ければ何でもいいと感じる方ですが、変にフェミニズムを押し付けるためのネタにされなければいいなと思います(笑)


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