見出し画像

食洗機の工事に来たルー大柴さん似のフィリピン人にパシられた話

私に、アパートに存在しない階を探し続けさせた、あのフィリピン人のLeeさんがまたやって来た。
結局、壊れた食洗機は修理不可だったため、新品と取り替えてもらうことになったのだ。今回はストレートにcrown floorまで迎えに行き、早速、彼は取り付け工事にとりかかった。

備え付けの巨大な食洗機のため、1〜2時間はかかるだろう。私はパソコンで作業をしながら、Leeさんはルー大柴さん(*1)に似ているな…と、横目で工事の様子をちら見していた。すると突然フィリピン人の大柴さんが、

『Hey, can you help me?』
(ねぇ、ちょっと手伝って)

と、大声を出した。まさか客である自分に声をかけていると思わず、誰か追加で作業員が来たのかと思ったら、まさかの私だった。大柴さんの所へ行くと見たこともない機械を手渡され、

『If this light turns on, you should tell me “ON”.』
(このライトが付いたら「ON」って言って)

と指示された。指示に従い、訳も分からぬままに『ON』『OFF』と言い続ける。一体なんなんだこの作業は…。5分ほどして解放され、パソコン作業に戻って意味が分かった。さきほど渡された道具は、食洗機が通電しているかを確認する物で…そのために大柴さんは部屋のブレーカーを付けたり切ったりしていたようで… そしてそのブレーカーはもちろん、私のパソコンに繋がっていたもので… あった。見渡せば、部屋中全ての電化製品のディスプレイ画面が点滅している一言あっても良かったのではないだろうか?

通電の確認の後、少しずつ巨大食洗機が取り出されてきた。ここでまたしても大柴さんが『Hey』と呼んできた。嫌な予感がする。

『Are you a Japanese?』(キミ日本人?)

…どういう意図なのか、全く読めない。しかし嘘をつく必要もないので、そうだと答えた。すると彼は片言の日本語で、

『タオル、カシテクダサ〜イ』

とお願いしてきた。タオル?なんのために?それは普通、業者さんが準備して来るものではないのか?言いたい事は色々あるが、仕方ないので雑巾用に保管しておいたフェイスタオルを差し出した。すると、それでは小さすぎるからバスタオルが良い、と指定してきた。

『I'll wipe clean water with this towel, so it won't get dirty. Don’t worry.』
(綺麗な水を拭くからタオルは汚くならないよ。心配しないで。)

そう言われたものの、壊れて放置されていた食洗機から出る水は、果たして綺麗だろうか?いや、仮に水が綺麗だとしよう。しかし、床に流れ出た綺麗な水は、もはや綺麗とは言えないのではないだろうか?目の前で床を拭かれたバスタオルは、すぐに処分した。

その後、「シャ、シャーッ!」と、大柴さんの予想を越えた量の水が噴き出してきた。大柴さんは何かミスったのかもしれない。慌てた彼は、

『Can I use this?』(これ使っていい?)

と、私が普段お弁当用に使ってるタッパーを指差した。用途が丸分かりであるため拒否したかったが、代わりに渡す容器がなく、しかも状況が状況であるため泣く泣くOKした。そしてそれも、すぐ処分した。

ハプニングがありつつも工事は終盤に近付いてきたように見えた頃、またしても大柴さんが『Hey…』
今度はなんだ。もう勘弁してくれ。

『Can you put some coins into my parking meter? I’m serving you, so you should serve me, OK?』
(僕のパーキングメーター(硬貨投入式のタイマー路上駐車)に追加のお金を入れて来てよ。僕は君を助けてるよね、だからキミも僕を助けるべきだよね。)

ここで一旦、私と彼の関係性を振り返ってみた。しかし、どう考えても大柴さんは業者さん、mariさんはお客さんである。
そこまでする必要はあるのだろうか?しかしここで断ると彼が何をするか分からない。私は自分の財布を手に取り、駐車料金の延長料を払いに行った。

そして、無事に食洗機は取り付けられた。人をこき使いながらひと仕事を終えた大柴さんは、食洗機の使い方を簡単に説明し、最後の最後に人の家のトイレで用を足して帰って行った。

新しい食洗機は嬉しい。しかし色々と腑に落ちない。これからしばらくは、ディッシュをウォッシュする度に、彼のフェイスがヘッドをよぎることであろう。


*1) ルー大柴さん:知る人ぞ知るジャパンのスタータレント。スリーデイズ坊主(三日坊主)、虫のインフォメーション(虫の知らせ)、合わせるフェイスがない(合わせる顔がない)、一寸先はダーク(一寸先は闇)など、オリジナルな話法で名高い。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?