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今さら聞けない「ESG投資」と、最近の投資家の動き(1)

 最近、よく見かける「ESG投資」ということば、どんなことを指していて、初めての人にもわかるように私なりに解説してみます。

ESG投資って何?

 E (Environment 環境)、S (Social 社会)、G (Governance 企業統治)の3つの頭文字をとったものです。これらのファクターを企業への投資判断に取り入れることをESG投資といいます。例えば、次のようなものです。

<ESG要素の例>
E: 環境汚染、気候変動などに伴うリスク、対応策
S: 取引先、顧客、消費者、従業員などのステークホルダーや社会との関係
G: 取締役会などのガバナンス体制、法令順守

 投資家は株価と業績しか見ていればよいのではないかと思われるかもしれませんが、そうでもありません。顧客のニーズを汲めない商品は売れませんし、従業員や取引先にひどい対応をして離反されたら、売上は下がり業績に影響が出ます(S)。不正を見抜けないザルのガバナンス体制では、いつか不祥事発覚で株価は急落するかもしれません(G)。工場の排水を河川に垂れ流して近隣住民から訴えられれば会社は倒産の危機となります(E, S)。と、まあ、普通に考えたらめぐりめぐって経営に影響があるとわかりそうなことばかりですよね。でも財務諸表には表れないことばかりでもあります。非財務的な情報をきちんと企業調査の段階で重視しないと、投資家もあとで痛い目に遭いますよ、ということです。

 世界で潮目が変わったのは、2006年に国連が、責任投資原則(PRI, Principles for Responsible Investment)を呼び掛けてからです。「持続的に成長可能な社会」への貢献を投資の意思決定プロセスに加えるというこの原則には、2,300社を超える金融機関が署名しています。2018年のESG投資の規模は世界で30.7兆ドルであり、2014年から平均で年率18%成長していて、世界の資産運用額の3割(*1)を占めています。
 ポイントは、ほとんどの大手金融機関が(その一部でも)、すでにESG投資家になっているということです。また、各社内でESGスペシャリストと呼ばれる人材も増加傾向です。たとえば、ある米系の大手運用機関では、3年前に3人だったESG担当者が40人以上に増加しているそうです。日本でも公的年金を運用するGPIFが2015年に責任投資原則に署名して以来、急速に広がっています。

なぜ、ESG投資?

 では、なぜ、ESG投資なのでしょうか?その理由には、大きく分けてふたつの考え方がありました。
 ひとつは、長い目で見れば儲かるはずだから。先ほど挙げたように、ESGを軽視すれば経営や業績へのリスク要因となります。これらに対処している会社は、そうでない短期的な利益を重視する会社よりも、中長期的には利益をあげ、株価も安定的に上昇するであろう、という「仮説」です。
 もうひとつは、善いことだから。資金の最終的な出し手である一般市民の共通の利益であるから、という「あるべき論」です。
 人のお金を預かって運用する機関投資家の責務として、出資者の利益を最大化しなければいけません。利益とは、どのことでしょう?

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 経済的利益について、ESG投資の方が中長期的に高いリターンを出すという仮説は、様々な角度から検証されていますが、先進国市場ではいまだ決定的な実証データは出ていません。新興国では、市場平均を多少上回っているようです。では社会的利益の追求だけでESG投資はここまで盛り上がるものなのでしょうか。

 答えは、ふたつの利益は両立するという考え方が浸透してきたからです。2011年、経済的利益と社会的利益の両方が成り立つとする考えが、5 Forces などの経営戦略で有名なハーバード大学のマイケル・ポーター教授から提唱されました。それはCSV(Creating Shared Value:共有価値の創造)という概念です。ポーターは、CSVを「社会のニーズや問題に取り組むことで社会的価値を創造し、同時に、経済的価値が創造されるというアプローチである」と定義しています。

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 もしあなたが起業家精神をお持ちであれば、潜在的な社会のニーズや問題に取り組むことがビジネスチャンスであると自然とおわかりでしょう。
 個人間の荷物の配送が未発達であることを、社会ニーズととらえたヤマト運輸は宅急便事業で大きく成長しました。高度成長期に皆が忙しくなってきた時代、おいしく安全なものを早く簡単に提供して主婦を楽にさせたいと、即席ラーメンを開発した日清食品はいまやグローバル企業です。社会課題を解決しようとするところに成長機会あり、というわけです。
 事業の推進力として、経済的利益と社会的利益が同じ方向を向いていることの重要性が、株式市場でも再認識されています。最近では、人手不足を解消するため、企業向けにAIを使ってサービスを提供するベンチャー企業が株式市場で人気ですね。
 そう、ESGとは、経営の「機会」と「リスク」なのです。


(2)なぜ、いま、ESG投資? に続きます

*1 Global Sustainable Investment Alliance 2018



 


IR(インベスター・リレーションズ)の経験などに基づいたテーマで記事を書いています。幅広い層のビジネスパーソンにも読んでもらえたら嬉しく思います!