プライム市場に行く意味(続き)
さて、前回(上記)はプライム市場に行く意味は①流動性(一日あたり売買高)と②多様な投資家へのアクセスだと書きました。その中で出ていそうな疑問について書いていきます。
1.高い売買高の主因~TOPIXはどうなる?
TOPIXは東証1部上場の全企業を対象とし、各銘柄の浮動株数に基づく時価総額を用いて算出します。このTOPIXに連動する運用額が巨大なので、TOPIXに入らない二部や新興市場の企業は売買高が低いのです、という話でした。
それで2022年4月の市場区分再編後、TOPIXはどうなるのかというと、東証一部からプライムに移行しない企業を、2025年1月末にかけて少しずつ外していく計画が公表されています。株価への影響を最小限にする意図が見えます。(詳しくはこちら)
報道によれば6月末の東証一部の企業2,190社のうち664社が一次判定で基準未達のようです。なお全体(3,782社)のうち965社が希望する移行先の基準に満たないそうです。是正措置などがあるため、希望する市場へ移行できない企業はもう少し減りそうです。
この影響は、時価総額で見ると、TOPIX全体の1%程度と試算されています。基本的には流通時価総額が100億円未満の企業がプライムから他市場へ移行するためです。したがって、投資家にとってはほとんど影響がありません。しかしTOPIX連動型の投資が売買の大半を占める企業の ”株式の流動性には” 大きな影響になると思われます。(”経営上”の影響になるか否かは企業の財務戦略の問題であるのは前回書いたとおりです。)
2.鶏口となるも牛後となるなかれ?
また興味深いのは、2025年1月末までの移行期間終了後(?)、スタンダードやグロースからもTOPIXへ組み入れる可能性を示唆されていることです。(下図の真ん中)
投資家にとってはTOPIXとは、日本の株式市場を代表する企業で構成されるべき指数であり、市場区分に固定されてほしくないということでしょう。
ということは、売買高を稼ぎたいならTOPIXに組入れられるプライムに行くべし、という前回のnoteとは異なるロジックで、プライムになんか頼らなくったて、投資家の人気も高いし全然問題ない、という企業も出てくるでしょう。今のマザーズや二部でも時価総額が上位にある企業でしょうか。「鶏口となるも牛後となるなかれ」タイプですね。
整理すると、現在東証一部で牛後となっている企業にとってはTOPIXに入ることは(流動性的には)死活問題である一方、他の市場で鶏口となっている企業についてはプライムを選ばずとも、TOPIXに入れるかもしれないし多様な投資家層にアクセスできるチャンスが広がるかもしれません。(でもまだどんな基準か未定だし、そんなに待てないなら、さっさとプライムへGo!)
3.改訂コーポレートガバナンス・コードの意図はどういうこと?
さてここで、改訂版コーポレートガバナンス・コード(CGコード)について触れていきます。
市場区分変更と同時に、プライムには特に高いコーポレートガバナンスを要請されています。これには、世界から投資したいと思われる株式市場にするという強い意志が感じます。ACGAとCLSAの調査によればアジア各国の中のコーポレートガバナンスの日本のランキング(2021年)は、オーストラリア、香港、シンガポール、台湾に続く5位です。日本はこの数年大幅に改善したと言われていますが、それでもアジアで5位なのです。
投資家にとってコーポレートガバナンスとは、リスクを抑えるとともに稼ぐ力を促す中長期の仕組みです。ブレーキの役割だけでなく、適切なリスクをとってチャレンジさせるのもコーポレートガバナンスで、CGコードにもそう書いてあります。しかも今回は、持続的な成長を特に重視しています。
現在の東証一部の売買の6割以上が外国人投資家によるものですから、世界から見て魅力的な市場(=持続的に稼げる企業の集団)を形成するための改訂なのです。
留意すべき点は、CGコードは「ソフトロー」であり、順守すべきものではないことです。ソフトローの形式に背景は、日本人はお上が何かを示すと素直に従うことが多いため、良いガバナンスの「型」を示すことで、底上げを図る目的だと私は理解しています。
しかし有効なコーポレートガバナンスのあり方(=持続的な稼ぎ方)は企業それぞれであり、「考えてないコンプライ」はただの縛りになり、「考えているエクスプレイン」の百倍悪いと私は考えます。私が投資家なら、エクスプレインの場合、自社のガバナンスの形態が、ステークホルダーや社会との共通善を満たし、どう持続的な価値向上をもたらす経営か、説明してほしいと思います。
4.この改革は、「みんなで豊かになる」のが狙い
今回東証の資料を読み返してみて、あらためてこの市場区分再編は、投資家のためだと感じました。現在の、各市場のコンセプトも指数のコンセプトもぼやけている状況では、世界の投資家と本気で向き合う企業とそうでない企業が混在していて、他の国の株式市場と戦えないという焦燥感が見えます。各市場のコンセプトと基準をあらため、規律(CGコード)を見直す。それによって企業の意識を変え、魅力的な「稼げる」市場をつくる意志が見えました。
それは機関投資家が儲けたい理屈で私には関係ないと思ったそこのアナタ、間違っています。機関投資家の裏には個人の年金基金や税金があり、その一部を日本株式で運用しています。日本株が上がらないと私たちの資産もなかなか豊かになりません。外国株や債券などで運用すればいいじゃないかと言うと、そうでもなく、日本人の資金が日本に残らないということもマイナスです。日本人みんなで貧しくなっていっては困ります。株価が上がることでそれに連動した報酬があれば従業員のふところも潤います。
つまり上場企業が株式市場に本気で向き合い、株主価値を高めることは、みんなで豊かになる一歩なのです。そのエコシステムの最初の歯車を回すのが、IR(インベスター・リレーションズ)だと私は思います。
ーENDー
IR(インベスター・リレーションズ)の経験などに基づいたテーマで記事を書いています。幅広い層のビジネスパーソンにも読んでもらえたら嬉しく思います!