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今さら聞けない「ESG投資」と、最近の投資家の動向(2)

なぜ、いま、ESG投資?

 なぜESG投資なのかはわかりましたね。では、なぜ、いまなのでしょう。
ひとつは、実際にESG要素が将来の成長機会、あるいはリスクファクターとして大きくなってきたことです。共通認識が変わったといえましょう。私見ですが、共通認識の変化が大きいと思われる項目が以下です。

<近年の着目点>
E: 地球温暖化、海洋汚染等による将来の経済悪化への危機感
S: 社会課題解決による成長機会の取込み、人権問題を含む労働環境リスク
G: 企業統治の改善による株価の上昇期待

 顕著なのは地球温暖化です。一部の人たちの叫びという認識から、世界の金融トップの間では「気温上昇は事実」(*1)で、「目の前にある危機」に変わりました。国連のPRIのページでも、"Climate change is the highest priority ESG issue facing investors. (*2)"としています。たとえば、住宅ローンや住宅保険市場。100年に一度といわれる大型の台風やハリケーンの来襲が50年に一度になれば、発生確率は2倍です。金融、特に保険の理屈とは、確率論そのものです。過去の発生確率をベースにした商品設計・生活は、いずれ破綻します。住宅ローンを借りた消費者が破綻するか、保険会社が破綻するか、銀行が破綻するか、どれかです。一部の投資家は、ハリケーンの影響を受けやすいテキサス州やフロリダ州における経済状況の悪化を懸念しているそうです。最近の報道によれば、IMFの金融資本市場局長は、気候変動が経済に与える影響が現在の株式市場・債券市場に充分織り込まれているか調査中としています。
 またミレニアム世代の価値観は、その上の世代に比べ、社会的な課題に敏感だといわれています。彼らは消費においても、フェアトレード商品や、社会的な取組みに共感できる企業の商品・サービスを好んで選択する傾向が見られます。経済的価値を追求していく過程にも、社会的な価値を問われる時代となっています。

 このような一般市民の価値観の変化は、そのまま資金の出し手の価値観の変化となっています。公的機関として、社会的に好ましくない企業には投資しないよう求める年金基金。同じ程度の利益をもたらす金融商品であれば、より社会的に善いものを求める一般消費者。大手機関投資家も、顧客である彼らの要望は無視できません。

 さらに、機関投資家側の勢力図の変化も拍車をかけています。機関投資家の中でも、株価指数(インデックス)の構成と同じように投資する「パッシブ投資」が増えています。これに対し、個別企業を研究して投資する「アクティブ投資」が押され気味です。日本IR協議会のデータによれば、日本の株式市場に投資する機関投資家をスタイル別に分類すると、2018年には46%がパッシブ投資で、この数字は継続的に上昇しています(下図)。パッシブの中でもデータを使って機械的に投資する取引手法が増加し、「アクティブ投資家」には受難の時代が訪れています。

日本株の投資スタイル別推移

 アクティブ投資家にとっては、将来成長が期待される企業や、安定して利益を出しているのに低く評価されすぎている企業を発見する手段として、財務分析だけでは足りないと感じています。四半期単位の業績に一喜一憂するのではなく、持続的な成長の鍵となる非財務的な情報=ESGにも着目するようになっているのです。今のところ、これは機械に比べ人間の方が得意とする投資判断方法です。

 人間にしかできないことが、もうひとつ。企業とプロの投資家が、対話(エンゲージメント)を通じて、経営上の課題認識を共有することができます。投資家はプロの経営者ではありませんが、世界中のプロ経営者と対話をしているので、有効なヒントを企業に提供してくれることがあります(もちろん機密情報ではない情報を用い、強行的ではない手段で)。経営者もプロですから、ちょっとしたアドバイスで経営そのものや、経営内容を伝えるIRが改善し、株価が上昇するケースが本当にいくつもあるのです。この対話(エンゲージメント)においては、短期業績ではなく、長期の価値向上につながる非財務的な情報が、重視されています。特にコーポレートガバナンスにおいては、対話による株価上昇の効果があるといわれています。
 また、パッシブかアクティブかにかかわらず、出資者の要請に応じたESG投資が増加していることは前述のとおりです。
 このような背景により、機関投資家は、自らの生き残り戦略として、あるいは必須要件として、ESG投資に取り組む必要がでてきたのです。

 次回は、投資家が企業に求めるESG情報についてです。

*1 気象庁 「地球規模の気候の変化」
*2  国連 PRI  Climate Change

IR(インベスター・リレーションズ)の経験などに基づいたテーマで記事を書いています。幅広い層のビジネスパーソンにも読んでもらえたら嬉しく思います!