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金曜日の随筆:無能な働き者

また運命を動かしていく金曜日が巡ってきました。2023年のWK49、師走の弐です。体調はまだ本調子からは程遠く、何とか逃げ切れて今はホッとしています。お酒も二週間止めており、こんなにも長い期間アルコール摂取を控えているのは珍しく、10年以上記憶にありません。お酒は無理に飲まない方が体調にプラスなのは確かですが、何か口寂しくもあります。

さて、本日の金曜日の随筆は、ドイツの軍人、ハンス・フォン・ゼークト(Johannes Friedrich Leopold von Seeckt 1866/4/22-1936/12/27)に由来するゼークトの組織論から、『無能な働き者』というテーマを考えてみます。


今週の格言・名言《2023/12/4-9》

Money can be like a magical genie lamp that makes people happy.
お金は「人を幸せにする魔法のランプ」

In most cases men willingly believe what they wish.
人は、自分が望んでいることを信じたがるものだ

Julius Caesar, politician/ancient Rome
ジュリアス・シーザー 政治家/古代ローマ

ゼークトの組織論

ゼークトの組織論とは、組織内に属する人材を、「利口」「愚鈍」「勤勉」「怠慢」の切り口で掛け合わせた4つのタイプに分類し、それら人材に、どのような役割を与えると能力に応じた活躍ができるかを示した理論です。

⚫︎有能な働き者(利口・勤勉)=参謀
⚫︎有能な怠け者(利口・怠慢)=指揮官
⚫︎無能な働き者(愚鈍・勤勉)=✖️
⚫︎無能な怠け者(愚鈍・怠慢)=兵卒

それぞれの類型の説明は省きますが、このゼークトの組織論において、最も害のある存在とされるのが、無能な働き者(愚鈍・勤勉)タイプの人材です。正しい判断力や行動力の資質が備わっていないにもかかわらず、自身の勝手な判断で行動してしまう、いわゆる「余計なことをしてくれる」タイプの人材です。この無能な働き者がよかれと思って刻苦勉励することで、却って組織に損害を与えたり、周囲が後始末に追われたりといった混乱や災いをもたらします。しかも、本人は自信過剰で、「よかれと思って動いている」点が厄介です。自己評価が高く、周囲にも尊大な態度を取る傾向があるとされます。ゼークトは、このタイプは即刻処刑すべき、という厳しい評価を与えています。

無能な働き者の末路

私は、この分類について、学生時代に読んだ渡部昇一『ドイツ参謀本部』(中公新書)で知り、衝撃を受けました。

周囲から『無能な働き者』の烙印を押された人間の末路は惨めなものです。本人は、やる気もあり、一生懸命なだけに余計に痛々しく映ります。

私は、周囲から『無能な働き者』という評価だけは絶対に受けたくない、と固く心に誓いました。そして、仕事でこのようなタイプの人に出会った時は、心の底から軽蔑の対象としました。それは普段の私の態度に露骨に現れていたと思います。私自身も、自分の資質が足りていないと悟る仕事の場面では敢えて深入りすることはせず、やる気を出し過ぎないように細心の注意を払いました。組織には適材適所があります。組織に属する者は、一個の「駒」であり、自分の意欲や自己顕示欲を全面に出して誇示する態度はみっともない、と今でも思っています。このゼークトの組織論をキャリアの早い段階で知ってしまったことは、私の仕事観に深い影響を与えています。

評価は他人がするものだから

組織における無能な働き者の評価は散々です。ただそうした評価を、当の本人が自覚できていない、という問題は根深いものがあります。私は、せめて『無能な怠け者』として、組織には悪影響を与えないよう、その他大勢に甘んじる勇気を持ちたいと心から願ってきました。

日本企業の場合、無能な働き者が組織の中枢に居座ってしまう可能性は大いにあります。年功序列、派閥による温情人事が蔓延る古い大組織では尚更その傾向が強くなりそうです。多くの組織人が経験していると思いますが、自分が軽蔑している人間、全く評価していない人間から下に扱われるのは、何とも言えない屈辱感があるものです。まあ、歪んでいる組織、は最終的に世間の審判を受けます。無能な働き者が、重責を担わなければいけない組織は不幸です。

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