金曜日の随筆:藤井八冠の強さの秘密
また運命を動かしていく金曜日が巡って来ました。2023年のWK41、神無月の弐です。本日も時事ネタです。先日京都で行われた将棋の王座戦第四局で、永瀬王位を破り、前人未到の八冠を達成した藤井聡太八冠の強さの秘密について、師匠の杉本昌隆八段が解説している記事を読んでの感想文です。
今週の格言・名言《2023/10/3-15》
とんでもない強さ
八冠とは、将棋界の八大タイトル(竜王・名人・王位・叡王・王座・棋王・王将・棋聖)を全て保有するという、とんでもない快挙です。全冠制覇は、七代タイトル時代に羽生善治九段が達成していますが、叡王が2017年度にタイトルに加わって八冠制になってからは初の快挙です。
プロ棋士は、一握りの天才中の天才しかなれないような狭き門の世界です。そのような俊才ばかりの中で、21歳3ヵ月での八冠達成はとんでもない快挙です。藤井八冠は、2016年に史上最年少の14歳2ヵ月でプロデビューすると、公式戦29連勝を果たしたことで、一躍世の注目を集めました。その重圧に屈することなく、その後も着々と進化を遂げ、突出した戦績を上げ続けているのは、驚異的なことです。
最善手を探り続ける集中力と正確性
将棋は、一手のミスが致命傷となり、一瞬たりとも気の抜けないシビアな戦いです。圧倒的優位な曲面で、悪手、凡手、緩手を指してしまった為に一気に形勢逆転して、敗戦に追い込まれることも珍しくありません。長時間緊迫した状態で、何パターンもの変化をひたすら読み続けなければならず、並大抵の集中力と精神力では、勝利は手繰り寄せられません。
藤井八冠もまた、対局では尋常ではない集中力を発揮し、最善手を探し続ける執念がずば抜けていると言われます。少しでも優勢になると、正確無比の寄せで滅多に逆転を許しません。逆に劣勢に展開していても、相手の意表をついた一撃で、形勢を逆転してしまう底力が凄まじい、とされています。単なる勝ち、負けでは満足せず、将棋の本質をとことんまで突き詰める求道者の如き趣きがあります。
挑戦し続ける姿勢
師匠の杉本八段は、藤井八冠の常に挑戦し続ける姿勢を賞賛しています。単なる勝ち敗けを越えて、考え続ける、読み続ける、妥協しない姿勢を、「本物」と表現しています。先入観なく、リスクのある最善手を選択できる強さを讃えています。
そして興味深かったのが、最善手を見つけ出す深い読みの力とその見つけ出した最善手を臆せず指せる真の強さがある、という点です。最善手を打てないのは、最善手を見つけられないという問題ばかりではなく、これが最善手だと自分ではわかっているのに、恐怖心や雑念が頭を過って、つい回避してしまうという問題があります。藤井八冠は、最善手を着実に見つけ出す卓越した能力があるのは間違いないが、自分が確信して見つけ出した最善手を、勇気を持って選択できる強さがある、ということのようです。
これは簡単そうに見えて、なかなか貫けない態度です。
運に頼らない強さ
杉本八段は、藤井八冠は、運に恵まれていないタイプの棋士だ、といいます。しかし、運の要素を超越するだけの研鑽を積んでいることが、彼の真の強さに繋がっているようです。相手のミスに頼らず、自分の読みの力で勝ち切ることを信条とする棋風、正統派の中の正統派という印象です。腕力で相手を捩じ伏せるのは、自分に自信がなければ出来ないことです。
まだまだ、興味深い要素が色々ありますが、本日はこのあたりで。