見出し画像

『ファーザー』を観る

本日は、映画『ファーザー The father』(2020)の鑑賞記録です。TOHOシネマズ シャンテ(日比谷)で観てきました。(on 2021/6/21)

作品の概要

本作の原作は、フランスの人気小説家・劇作家・脚本家のフロリアン・ゼレール(Florian Zeller 1979/6/28-)が、2012年に発表した戯曲『Le Père 父』です。

原作は、フランスで最も権威ある演劇関連の賞とみなされているモリエール賞の最優秀脚本賞を受賞しています。舞台作品としては、イギリス、アメリカ、日本など世界45カ国以上で上演されています。(2020年時点)

2015年にはフランス語版の映画『Floride』が公開されています。本作では、原作者のゼレール自身が、認知症の父役にアンソニー・ホプキンス(Anthony Hopkins 1937/12/31-)を当て書きしてリメイクし、監督をしています。第93回(2021年)のアカデミー賞脚色賞を受賞しています。

認知症を患っている年老いた父の視点による不思議な体験が描かれており、Webサイトの解説に書かれていた

何が現実で何が幻想か、観る者は主人公と共に、迷宮のようにスリリングな記憶と時間の混乱を体験し、すべてが明かされた後、冒頭から観直したい衝動に駆られる。父と娘のやり取りは、切ないけれどおかしく、いらだたしいのにいとおしい。迷い揺れる人間的な登場人物たちに自分自身を見出し、思いがけない結末に激しく心を揺さぶられる感動作。

は大袈裟ではなく、的を得ています。「あれはどういうことだったのか?」という謎が数多く残り、確かにもう一度確認したくなる映画でした。

名優 アンソニー・ホプキンスの演技力で魅せる映画

アンソニー・ホプキンスは、本作で自身二度目となるアカデミー賞主演男優賞を受賞しました。83歳のホプキンスは、史上最高齢受賞者のようです。

娘のアンを演じたオリヴィア・コールマン(Olivia Colman、1974年1月30日-)も、『女王陛下のお気に入り』でアカデミー主演女優賞を受賞している達者な女優さんです。壊れていく父を献身的に支える娘の日々の葛藤を、素晴らしい演技で見せてくれます。しかしながら、ホプキンスの圧巻の演技力によって成立している作品と言えるかもしれません。

● 自分のフラットだと言い張っている家は本当に自分の家なのか
● モノがどんどん少なくなっていくのは現実か、幻想か
● 介護人として登場したどちらのローラが現実なのか
● 時計を盗まれたという話は現実か
● ポールを名乗って突如消えた不思議な男(The man)は何を象徴するのか

様々な疑問が今も残っています。エンディングの静けさが、かえって不気味に感じました。

鑑賞中は、認知症のおそろしさ、生きるということの悲哀に真正面から向き合わざるをえない時間でした。決して愉快な経験ではありませんでした。遠くはない将来、私もこのように記憶が混濁とする瞬間がやってくるのかもしれないと思うと、背筋がぞっとするような怖さが残りました。

サポートして頂けると大変励みになります。自分の綴る文章が少しでも読んでいただける方の日々の潤いになれば嬉しいです。