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大迫選手のマラソンレース構想

大迫選手と川内選手のやり取りがニュースに

マラソン日本記録保持者の大迫傑選手がツイッターで、2021年3月頃に純粋に速さを求めるマラソンレースの開催案を発表しました。

多くの競技関係者が賛同と協力を表明する中、川内優輝選手が「大迫選手が東京マラソン財団に戦線布告」という表現を使ってツイートしたことに大迫選手が「残念」と応じた為、二人がバトルをしているかのように報道されています。お互いマラソンランナーとして知名度も人気もあり、キャラが立った選手同士の意見の応酬ということで、内容度外視でマスコミが話題にしている印象です。

私は両選手のファンです。川内選手は以前noteに書くくらい生き様を尊敬していますし、大迫選手は(青山学院大学の原監督も指摘していますが)「長距離選手を極めてやる!」という迫力と覚悟を感じさせるカッコいいランナーです。二人のツイッターアカウントをフォローしているので、一連のやり取りに全て目を通しました。

一読した時は、川内選手のコメントは確かに冷ややかで挑発的なものに感じられました。大迫選手が訴えたかった大事なところを(意図的に?)スルーして、本質とは違うところ ~詳細未定としながら、3月開催だけを明確にしているのは、同時期に開催される東京マラソンに対抗させたいから?~ をさわって揶揄したように見えたからです。

大迫選手としては、“宣戦布告”(川内選手は“戦線布告”と綴っている)されたと考えて、全力で否定したのは理解できました。ただ、その後のやり取りを読む限り、その行き違いは解消しているように思います。

取り上げられるのはそこじゃない

二人の緊張したやり取りよりも、大迫選手が提起した日本のスポーツ界全般に関わる根深い問題と大会開催の真の趣旨こそ、もっと広く深く議論されるべきテーマだという気がします。

スポーツは最高のビジネスコンテンツです。ビジネス性の乏しいスポーツ競技には人も金も集まりませんので、残念ながら大きく発展していきません。一方で、動員力のある人気スポーツはプロ化が可能だし、ビッグビジネスにすることもできます。

ところが、プロスポーツビジネスは、スポーツ業界を束ねる協会や取り巻き産業の懐ばかりが潤う反面、スポーツの魅力をPRし、ブランド価値そのものといってよい現役アスリートへの還元が極めて薄いのが実態です。大迫選手の発案には、アスリートたちの純粋な競技力向上に加えて、このいびつな状態を何とか改善したいという意図を感じました。

アスリートへの金銭的還元が十分ではないスポーツ界の問題

大迫選手のツイートによれば、今年の9月に開催されたMGCでは、出場選手に賞金が一切支給されていないようです。MGCは結構話題になった大会なので、大きなお金も動いたに違いありません。日本一決定戦を闘ってMGCを盛り上げた出場ランナーの価値が蔑ろにされている感は否めません。

大迫選手は、人生を賭けて挑戦しているランナーたちに対して金銭的還元がないことに疑問を持つと同時に、スポーツで世界を目指すアスリートの置かれたこのような境遇を自分の力で改善したいと感じて発信したり、自ら動く決意をしたのだと思います。

それぞれのアプローチ

現在の大迫選手は自分が走ることで生計を立てるプロランナーです。走ることに人生と生活がかかっています。世界の一流選手達と勝負を経験することで、世界のトップレベルとの差も痛感していることでしょう。このままでは、世界のトップクラスと互角に亘り合える日本選手が出てこないと感じているのだと思います。

多大な犠牲を払って精進を続けるトップランナー、エリートランナーですら生活の保障のない世界では、競技力の向上も長距離界の活性化もないという発想ではないかと推測します。

マラソンレースの開催はビジネスとして成立しなければ、実現しません。大迫選手のツイートは、このマラソンレース企画のプロデューサーの役割も果たしたいという風に受け取れます。

2020年の東京オリンピックまでは自身の競技に集中するものの、それ以降はプロランナーとして、プロスポーツビジネスに関わっている経験を活かして、自分のやりたいことをプロモーターとして実現したい、というビジネスマンの行動のようにも見えます。

この点に川内選手は違和感を持った可能性があるように思います。川内選手もプロランナーですが、彼もまた大迫選手とは異なるビジネスモデルで生活している強かなビジネスマンです。

一見空気を読んでいないツイートのようですが、個人スポンサーにサポートしてもらっている川内選手は、あくまでも「マラソン文化の草の根を支える1ランナー」としての立ち位置で貢献したいのかもしれません。

あるいは、自分のキャラクターやスタイルが、学生時代から常にトップアスリートとして脚光を浴び続けてきた大迫選手の提唱する『世界で戦えるエリート養成目的のビジネスモデル』とは肌が合わないと感じているのかもしれません。

お互いのアプローチは異なったとしても、二人とも日本の長距離界が盛り上がって欲しいと考えている筈なので、私はどちらも応援していきたいと思います。

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