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『チューリップ』を読む

本日は、早逝した米国の詩人・小説家、シルヴィア・プラス(Silvia Plath 1932/10/27-1963/2/11)の死後、1965年に出版された『アリエル Ariel』の中に収められている『チューリップ Tulips』という詩についての所感です。

偶然辿り着いた作品

私は、昨日までこの『チューリップ』という詩の存在も、シルヴィア・プラスという米国生まれの女性詩人の存在も知りませんでした。出会いは本当に偶然で、知的好奇心を発揮して縁を紡いていった先に辿り着いた結果です。

きっかけは、単なる思い付きで、画家のゴッホ(Vincent Willem van Gogh 1853/3/30-1890/7/29)の生涯を調べたことです。私は以前からゴッホの生涯や作品に並々ならぬ興味を抱いていて、彼について調べるのはこれが初めてではありません。彼が滞在していたオーヴェル=シュル=オワーズ(Auvers-sur-Oise)で死ぬ直前、パリから駆けつけた最愛の弟、テオ(Theodorus van Gogh 1857/5/1-1891/1/25)に言ったという最後のことば『La Tristesse Durera(哀しみは永遠に消え去らない)』に興味を引かれてました。

私が好きな英国のロックバンド、マニック・ストリート・プリ―チャーズ(Manic Street Preachers)『La Tristesse Durera(哀しみは永遠に消え去らない)』(1993)という曲があったことを思い出し、今更ながら、この曲が、ゴッホのこのことばからの引用だったのか…… という発見がありました。ライナーノーツで読んでいたのでしょうが、当時は全く刺さらなかったのでしょう。

ウェールズ出身のマニック・ストリート・プリ―チャーズは、現在は三人組で活動していますが、元々は、リッチー・エドワーズ(Richard James Edwards, 1967/12/22- 1995/2/1失踪、2008/11/23死亡宣告)を加えた四人組でデビューしたバンドです。エドワーズは、バンドの初期の楽曲の作詞の殆どを手掛け、バンドの世界観や方向性に影響を及ぼすほどの重要メンバーであったものの、精神面に慢性的な不安定さを抱えていました。1995年2月1日からの米国ツアーに出発する当日にロンドンのホテルから失踪したまま行方不明となり、2008年に死亡宣告が出されています。失踪の真相は、未だ謎に包まれたままです。

英語版のWikipediaには、エドワーズの失踪の原因について、妹のレイチェルは、エドワーズがシルヴィア・プラスの『チューリップ』のコピーを持っていたこと、彼の思考がこの詩のテーマとメッセージに支配されていたに違いないと語っていること、が書いてありました。それで、俄然興味が沸いて、慌ててこの詩の全文と、作者のシルヴィア・プラスについても調べたという次第です。

背景を知れば、深みを持つ詩

作者のシルヴィア・プラスは今も大変人気のある詩人で、現代詩の世界に革新的な役割を果たしたと言われる存在だということを知りました。『チューリップ』は、30歳でこの世を去った彼女が残した詩の中でもとりわけ評価と人気の高い作品だということです。

私は英文詩について全くの門外漢です。各7行の9スタンザ(英文詩の1単位、パラグラフのようなもの)、全63行で構成されるこの詩を、原文で1~2度読んだだけでは、描かれている世界観はほぼ理解できませんでした。解説記事や日本語訳も参照しながら読み下すことで、朧気ながら理解できてきました。

彼女の夫で英国出身の著名な詩人、テッド・ヒューズ(Ted Hughes, 1930/8/17-1998/10/28)の解説によると、この作品は、彼女が1961年に虫垂切除手術を受け、入院中の病院で受け取った赤いチューリップの花にインスピレーションを受けて創作されたとされています。生と死、赤と白などの対比が施され、ワードの選択が卓越しているという評価があります。

才能あるゆえの危うさ

シルヴィア・プラスは、若くして文筆の才能に恵まれながらも、数奇な運命に翻弄され、幼い子ども二人を残し、自ら命を絶った人です。長年苦しんだ彼女にとって死は自らの救済だったように見えます。彼女の歩んだ人生や決定に心を寄せることは、私には難しいものがあります。

ただ、この詩で絵が描かれる感覚は、本当に何となくではありますが理解でき、共感する部分があります。しかし、この詩が書かれた2年後に作者が自ら命を絶ってしまった、という事実を知ってから読み直すと、才能があり過ぎる故の感性の鋭敏さ…… 繊細さ…… 危うさ…… 色々と深読みができてしまう作品です。

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