見出し画像

『鉄道屋』を観る

amazon prime videoで降旗康男監督作品『鉄道屋』(1999年)を観ました。その感想を綴ります。

映画『鉄道屋』について

原作は、浅田次郎氏の第117回直木賞(1997年)受賞作品で、大ベストセラー小説です。主人公の鉄道屋(ぽっぽや)一筋の武骨な佐藤乙松を演じるのは、名優 高倉健さんです。

この作品は、第23回(2000年)日本アカデミー賞の優秀作品賞を受賞し、高倉健さんは自身二度目の最優秀主演男優賞を獲得しています。 

なぜか観ていなかった映画

名作と言われている作品ですが、これまで観ていませんでした。テレビ放送されているのを部分的に観た可能性もあるのですが、ストーリーも印象もまるで記憶に残っていません。

偶然手にした旅の雑誌で、撮影に使用された北海道のJR幾寅駅に、主人公が駅長を務める架空の駅、幌舞駅が再現されているという記事を読み、興味が沸いたのがこの映画を観るきっかけです。

主人公は高倉健以外では成立しない映画

まずこの映画、佐藤乙松役は高倉健さん以外では成立しないです。高倉健さんの主演映画は、高倉健さんのキャラクターありきの映画が多いのですが、この作品は特にその傾向が強いと感じます。

木村拓哉さんには『何を演じてもキムタク』という批判がありますが、高倉健さんがどんな役を演じても『高倉健』です。それが悪いというおおっぴらな批判を、私は聞いたことがありません。ここまでキャラががっちりと確立している役者ってなかなかいない気がします。

親友で同僚役の小林稔侍さん、亡くなった妻役の大竹しのぶさん、亡くなった娘役の広末涼子さん、回想シーンで登場する炭鉱夫役の志村けんさんら、脇を固めた役者さんたちの演技も光りますが、全ては高倉健さんありきの映画と感じます。

雪の中、駅のホームに鉄道員の制服姿で立つ高倉健さんの姿は惚れ惚れするほど格好よく、男の私でも憧れます。風雪に立ち向かい生き残ってきた無骨な男を演じさせたら右に出る者はいません。

激動の昭和を生き抜いた価値観が漂う

現代の夫婦関係、家族関係の在り方を考えた場合、乙松の鉄道員の職務に忠実すぎる行動や家族への不器用過ぎる接し方には、時代錯誤感もあります。もしも私が、同じような生き方をしていれば、妻からとっくに離婚されていたでしょう。

私は、自分で選んだ職業に28年半も従事しながら、仕事に対して、乙松のような信念やプライドも、自分の人生をまるごと捧げる覚悟も示せませんでした。あまりの自分との違いに、自身を恥ずる気持ちが湧き起こりました。

あらゆる全てのことをひとりで静かに受け止める男の器の大きさにぐっと来ました。昭和は、汗と泥にまみれて働く大人たちが支えていた時代だったのだなあ、と思いました。

鉄道マニアにもたまらない

ディーゼル機関車キハが、北海道の大雪原を走るシーンは壮観です。回想シーンで現れるC11やD51蒸気機関車の映像も鉄道好きにはたまらない魅力です。乙松の住んでいた官舎には鉄道マニア垂涎のお宝グッズが満載でした。いつか電車好きの息子ともう一度観たい映画でもあります。

サポートして頂けると大変励みになります。自分の綴る文章が少しでも読んでいただける方の日々の潤いになれば嬉しいです。