貸本屋三代目店主、いよいよ立退きへ!どーする? どーなる!?〜Vol.6〜

こんばんは。貸本屋三代目店主のマリです。

お花見もそろそろ終焉ムードの中、
みなさま、楽しく酔っ払われたのでございましょうか。

舞い散る桜の儚さに月もひっそり隠れた今宵。
第6回は、前回の立ち退き勧告&閉店決意から続き、
「べ、別に褒められたから続けようと思ったわけじゃ、
ないんだからねっ!」という流れを、
お話して参りましょう。


時は、弁護士事務所から立ち退きの通達が届いた当日、
10月7日の23時半過ぎ。

私の「残念なお知らせ」発表に驚愕したのは、
実は彼女だけでなく、そこに居合わせたもう一人の男性の常連さんも
同様だったのでありました。


こうした話を聞かされたとき、
世間には、ショックだ寂しいだとのたもうて、
えらく過剰に悲しい顔をしてみせる人も少なくはないもの。

しかし、そんな人々に限って、
建設的なことは何一つ言わず(=自分の労力はビタ一文と使わず)、
ただただ自分の悲しみを力強く表現してくるのが常・・・。

まあ、いいでしょう。それもそれで。
悲しみのパントマイムを嬉しく思う方もいるでしょうし、
悲しまれないよりは悲しまれた方がまだいいのかもしれない。

でも、そんな顔をされたところで何の足しにも解決にもなりません。
むしろ、その小芝居に付き合う分、こちらも時間と体力を消耗しますんで、
ご自宅に帰ってから存分にやっていただきたいと思うのですよ・・・。

えっ? 
ひねくれた反応をするな、と・・・?

それでは、このお話をしましょうか。

私、この日を経てからしばらくのち、
自身の興味から、とある調査をしてみたのです。

調査項目はもちろん、
この「残念なお知らせ」を発表した際、
どんな人がどういう顔をし、何と答えるのか、ということ。

結果はどうだったかといえば、
全然店に来ていない人ほど、
それはそれは悲しそうに眉根を寄せて、
「ショック」「悲しい」「残念」「続けて欲しい」
とおっしゃることが判明しました・・・。

こちらからしてみれば、
「さほど来てもいないんだから、この店があろうとなかろうと、
あなたの人生には大して関係ないはずなのだけれど・・・。
その顔作る無駄なエネルギー、発電にでも回した方がよっぽど役立つのに」と。

一方、足繁く来る常連さんなど、店に思い入れのある人々の場合、
話を聞いて驚きの表情を浮かべつつも、
すぐさま、「続ける気はないのか」「こうしたらどうか」と
ガンガン質問や建設的な意見を投げかけてくるのです。

ね、皆さん?
げに世の中とは、そういうものでございますのよ。


まあ、そんなわけでこの晩、
24時を回ろうかという深い時間から
お客さん2人による「どうにか続ける方法はないのか」
という議論がスタートしました。


まず、「アパートの一室でも借りて小さくやったら・・・」
という意見が出ましたが、すでにこちらも想定済み。

しかし、前回にも書きました通り、
今と同じようなことを繰り返しても意味がない。
てことは、今よりも規模を縮小すればさらに意味がないわけです。
(この「アパートの一室」案は、後々、現実的にも無理だと判明しますが、
その話はまたいずれ・・・)

他にもいろんな案を出してくれましたが、
残念ながら想定・検討済みのものばかりでした。

また。
私自身としてもう一つ言わせていただくのならば、
「昔から続く店ならではの佇まい」だからこそ、
引き継ぐことに意味があると思っていたのは事実。

もしも新しい物件を借りて似たような店を構えても、
失われた空気は二度と戻りません。

新しくなれば、そこに価値を感じなくなる人もいるだろうことなど、
私には容易に想像できたのです。

人によっては、たいしたことをしていなくても
「自分自身」に絶対の価値がある、と盲目的に思える方もいるでしょうが、
残念ながらリアル上等兵の自分。

溢れる自己陶酔によって生じる図々しさなど持ち合わせていませんし、
ほとばしる承認欲求によって空間把握能力を欠落させることもできません。

ええ、もちろん、
「いい店だから続けて欲しい」というご意見は
たいへん嬉しく受け止めてはおります。

しか〜しっ!!
こうした情緒的成分には、一切期待してはいけませんのよ。

例えば、廃線の決まった鉄道の場合。

最終日近辺だけ別れを惜しみたい多くの人々が大集結し、
涙を流して「ありがとう」と叫んだり、写真を撮りまくったりしますが、
「惜しむ暇があるなら、もっと前からたくさん乗れよ」と思うのです。

こうした現象と同様にして、
多くの場合、情緒的成分なんてものには、
継続的利益など到底望めないものなのです。


そう。
人は誰しも、自分の都合とフィーリングで生きているのです。
つまり、自分に都合が良きゃ行くし、悪ければ行かない。

突然の雨が降った日は「傘さすのも濡れるのも面倒」だから外に出ないし、
降る日が続けば、「家に籠ってても暇だなー」とばかりにやってくる。

そしてまた晴れれば「わーい、天気いいし、飲みいこ!」と遊びに出かけ、
晴れが続けば、「たまには家でのんびり過ごしたいよね〜」とやってくる。

人の都合と、天気が醸すフィーリングには抗えぬもの。
その事実は、この7年超の間に痛いほど感じておりました。

それなりに経営を持続可能にするためには、
情緒という不確定要素に期待してはいけない。

それはつまり、天気や都合等々に左右されない、
何らかの要素が必要だということなのです。

これまで青息吐息ながらも当店がやってこれたのは、
「50年続く貸本屋」「駅近くの商店街の店(=通勤経路)」「新刊たくさん入荷する」、そして、「漫画お勧めしてくれる」「店主が著しく変人」という、この5連コンボがあったからこそでございましょう。

情緒だけでなく、便利や都合、アトラクション感なども含め、
行動や思考のパターンが違う人々がそのうちのどれかに惹かれ、
代わる代わるに来てくれたおかげだと思うのです。


これらの考えをすべて伝えると、
彼女は「う〜ん・・・」と唸り声を上げ、頭を抱えました。

そして、突然、
「あっ!あそこだったらどうですか?」と叫んだのです。

それは、この界隈に存在する、とある施設のことでした。
ものづくり業界の人に開放したベンチャーオフィスで、
もとは小学校の旧校舎だったものをそのまま活用している施設。

「あんな古い校舎みたいな場所だったら
この店の雰囲気も残せますよね?」

ふむふむ、なるほど。それはそうかも。

おまけに、その施設ではいろんなイベントも開催されているため、
「何か新しいこと」をやりやすい環境でもある。

もしも、そうした新たな環境があったならば、
「自分が興味を持てるだけの何か」を見つけられるかもしれない。

件の施設にはおそらく店舗は入居できないでしょうし、
そもそも、空きがあるのかどうかもわかりません。

けれど、彼女のこのひらめきのおかげで、
私はこう思えたのです。

「もしかしたら、物件次第では自分もやる気が出るのかもしれない」と。

そして、幸か不幸か。

私は間取りと物件が大好きなのですよ!


これまで貸本屋にやってくる様々なお客さんに
「飲みに行こう」と誘われることが多々ありましたが、
公私混同しないことが肝要だと思っていた自分は
すべてのお誘いを頑なに拒み続けておりました。

ただ一つだけの例外、
「間取り図を持ってくる人」を除いては・・・。


そう、物件探しとは、人生の縮図。
どんな物件があるのかは、実に時の運であり、
どこで諦めるのか、どこまでも諦めないのか、
そしてその時、どんな取捨選択をするのかは、
まさに人の価値観であり、生き様であり、
その人が生きていく上での優先順位がそこに見え隠れするのでございます。

ああ、物件探しのなんと深く、楽しきこと哉・・・・!!
(実は、この彼女の引越しの際にも、間取り図では飽き足らず、
物件の内覧にも自主的に同行したほどの好きさ加減ですのよ)

自分自身が引っ越す機会はそうそうないものですから、
「こんな条件で、こんな物件を、このくらいの予算で探している」
な〜んて言われた日には、心躍らずにはいられませんし、
頼まれなくても物件を検索せずにはいられませんし、
機会あればいろんな物件を内覧して妄想を膨らませたいんですとも!!!

はあ、はあ、はあ・・・。
思わず熱く語ってしまいまして、失礼をば・・・。

兎にも角にも、お客さん2人の熱いトークのおかげで、
思いも寄らない「物件」という可能性に、
私はひとつの希望を見出したのでした。


この晩は深夜2時近くに帰宅しましたが、
いそいそと賃貸店舗物件の検索を始めずにはいられない自分。

第一条件は、「駅から徒歩3分程度」で、現在地となるべく近いこと。
また、現在の物件の家賃は月7万円という破格のお値段でしたから、
何としても10万円以下に抑えたい。
さらに、現状の蔵書がある程度まで収まるスペースは確保したい。
かつ、店舗としての使用がOKの物件でなくてはいけない。

厳しい条件ではありますが、
ああ、ワクワクせずにはいられません!

そうして、嬉々として検索をかけ続けた1時間後。


あった、あった!
これだと思えるものがあった〜〜っっ!!

駅から徒歩3分で、家賃は管理費含めて9万円超。
エリア的には幹線道路を挟んだ向こう岸ですが、
いわゆる小島よしお的には、
「そんなの全然いいっ!」

一体、その物件のどこに魅かれたかと言えば。

テナントビルの最上階にポツンと立つペントハウス様式で、
だだっ広い屋上のバルコニースペースは
「あなたが自由に使ってOK!」です、って・・・!?


この間取り図を見た瞬間、
突如、瞼に浮かび上がった光景がありました。

それは、
夜の静寂の中、立ち並ぶビルを背景に
そびえ立つ大きな白いテントの姿。

OH・・・! 
なんという美しき佇まい哉!!!

こうして、閉店を決意してからわずか数時間後。
私はこう決意したのです。

「儂は必ずや、
この屋上スペースにテントを立ててみせようぞ!」と。


「人間50年、下天のうちに比ぶれば〜」と、
桶狭間前夜の信長公が舞いを踊るがごときこの思い。
それはまさに、貸本屋を継ぐと決めたあの日のごとき情熱大陸!!


こうして、貸本屋三代目店主は、
「テントを立てる」という、
実に荒唐無稽、かつ、経営に一切関係ない、
新たな野望に向かうことを心に決めたのでした・・・。


さて、夜も更けて参りましたので、
今宵はここまでといたしましょうか。

次回は、
「テント立てたいこの想い、
君に届かないのはど〜してっ!?」をお送りする予定です。

それではみなさま、今夜も素敵な夢を!

・・・・つづく。

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