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カレーより麻婆豆腐だね

記憶にはないが母曰く、5歳から台所に立っていたらしい。
正直、物心ついた頃から適当に作ってもまあそれなりに、口に入れられる料理が作れるという自信があった。直感で調味料を入れていても美味しくなる。そんな根拠のない自信があった。
小さい頃ほとんど褒められた記憶はないけれど、料理だけは祖母からよく褒められていた。

輪るピングドラムを観て、毎週金曜日はカレーにしようと決めたことがある。
祖母のカレーは特殊で、バーモンドとジャワとこくまろをミックスして作る。分厚い軟骨のついた豚バラが入ったポークカレー。配分は覚えていないけれど、各々単品では味わえない良さがあった。
でも俺はそれを越えねばならない。俺カレーを作ろう。
思い立ったが吉日、作るならばいっちょスパイスから作ってみるかと思ってちょちょいと作ってみた。

本当に、不味かった。生まれて初めて美味しくないものを作った。食べようと思えば食べられる。だが、旨味がなく、辛いけど香りがなく、なんか脂っこいよくわからない物体だった。料理での初めての挫折。それがカレーだった。

当時は金がなく、男ふたりでルームシェアをしていた。結果そいつとは6年ほど一緒に暮らすことになるのだが、まあ、仮にそいつを元同居人氏と呼ぼう。
元同居人氏は全く料理ができなかった。俺が5日間実家に帰るとき、3日分程度の料理を作って後はよしなに食っといてくれ、そう言って旅立った。帰ってきた5日後、何を食べていたのかと聞いたら、「卵かけご飯とのりたまだけ」と宣ったので、すぐに飯を作るためにスーパーに買い物に行ったのをよく覚えている。

年間365日中、おおむね340日は飯を作っていたので、6年間でおおよそ2,000食は食べさせたことになる。彼は一回だけご飯を作ったことがあるけれど、それ以外全て自分が作っていた。

今振り返ると大変な苦労だったと思う。見返りとして元同居人氏には皿洗いをしてもらっていたけれど、結局食洗機を実装したので、俺だけ過剰な負担だった。仕事帰りにスーパーに行き、献立を考え、料理を作る。それでも、俺が飯を作り続けることができたのは、元同居人氏が6年間の中で、一度しか飯を残さなかったからだった。

その一食を除いて、6年間、全ての料理を完食してくれたからだった。

その一食も、ひどい風邪をひいて食べられなかっただけで、体調が悪くなければ食べ切ることはできただろう。
いつ何時でも、常に俺の飯を文句ひとつも言うことなく6年間食べ続けてくれたのだった。

だから、カレーとも言えないようなよくわからない物体も、元同居人氏は文句を言わず平らげるのであった。
その時、不味いものを作ってしまった罪悪感が残っていて、今自分にとって真剣に乗り越えなければいけない問題だと思った。
なので、そこから俺は、毎週金曜日に必ず俺カレーを作ることにした。

毎週毎週まずいカレーを作った。たぶん詳細を覚えていないのは、思い出したくないからだと思う。

カレーを作り続ける中で、目指したいコンセプトが見えてきた。
日本風のカレーが作りたい。欧州でもインドでもない、祖母のカレーのような、でも市販のルーは使わない、そんなカレーを目指したかった。

そうして挫折から5ヶ月後ついに、俺カレーに光明が見える。やっとそれなりに美味しいと言えるカレーができた。
日本風カレー、それは一体どうすればそのようなものに近づけることができるのか。

答えは簡単で、酒、醤油、味醂、味噌、を入れる。これだけだった。
料理のさしすせそ。これが日本料理を表している。ならばそれを入れればいい。当然の帰結であった。あまり砂糖はあまり好きではないので入れてない。
あとは、あのねっとりとしたルーの溜まりかたをどう表現するか。
ヒントはフランス料理にあった。

そこから俺カレーは劇的にな進化を遂げ、挫折から8ヶ月後、現状作っているカレーのベースが完成した。やっと満足のいくカレーを作ることができた。一つの料理に半年以上かけたのは初めてだった。あんなに不味かったのにこんなに美味しくなるんだな、そう思える料理だった。

俺の8ヶ月の集大成をここで詳らかにしようと思う。

■カレールー
玉ねぎ 一玉
生姜すりおろし 一欠片
にんにくすりおろし 一欠片
ウスターソース 40ml
ケチャップ 80ml
エスビーカレー缶 大さじ2/3
ガラムマサラ 適当
ターメリック 適当
コリアンダー 適当
クミン 適当
カルダモン 適当
ナツメグ 適当
オールスパイス 適当

■ベースになるもの
鶏もも肉 150g くらい(冷蔵庫の中にあった肉がこれだけだったので好きに入れてください)
じゃがいも 150g
にんじん 150g
日本酒 大さじ2
味噌 大さじ2
味醂 大さじ2
醤油 大さじ2
水 400ml
牛乳 50ml
粉チーズ 適当

■とろみ付け
小麦粉 30g
オリーブオイル 30ml

まずルーを作る。

玉ねぎをみじん切りにする。今回は丸一個。
フライパンにサラダ油大さじ3くらい(分量外)を熱し、弱火で飴色玉ねぎを作っていく。
玉ねぎが透き通り始めたら時短で食用グレードの重曹を小さじ半分入れる(分量外)。こうするとすぐに飴色になる。

飴色玉ねぎ

飴色になったら生姜のすりおろし、ニンニクのすりおろし、ウスターソース、ケチャップを入れ弱火に近い中火にし、ペースト状になるまで炒める。

ペースト上になったら、ペースト状になった玉ねぎをフライパンの奥に固めて、取手を下げて手前に油が溜まるようにする。
そこにスパイスを全て入れて油に馴染ませる。30秒くらい火を入れたら、玉ねぎと混ぜる。

スパイス全盛
ペースト状になった玉ねぎ

ルーの完成。

カヌレみたいになった

ルーを作っている間に食材を切る。
鶏もも肉は軟骨などなどを取り除き適当な大きさに切る。じゃがいもは皮を剥き適当に切る。にんじんも適当に切る。
にんじんとじゃがいもは耐熱容器に入れてふんわりラップをして電子レンジで3分、一度取り出し耐熱容器を振って中身の位置を変えてもう一度3分電子レンジにかける。

鍋に油を敷き、鶏肉を皮目から焼いていく。軽く色がついたらひっくり返し、電子レンジで加熱したじゃがいもとにんじんを入れる。

水、酒、醤油、味醂、味噌を入れて煮込む。味噌の香りを揮発させたいのでしっかり沸騰させる。

味噌を溶かす時は、ヘラに乗せるようにとって水分をかけながら切るように馴染ませると楽

10分ほど煮込んだら、先ほど作ったルーを入れしっかり溶かす。溶けたら牛乳と粉チーズを入れ煮込む。
沸いたら弱火にする。あまり火を強くすると牛乳とチーズの脂肪分が分離する。

牛乳を入れた状態、色が明るくなった

とろみ付けを作る
小麦粉とオリーブオイルを1:1で混ぜる。
鍋の中身を混ぜながらとろみ付けを流し込んでゆく。

そろそろカロリー爆弾の様相と呈してくる、これだけで300kcalである

とろみ付けが全体に馴染んだら、火を弱火に近い中火にして煮込んでいく。とろみ付けを入れると火を強くしても脂肪分が分離しなくなる。
最終的にトマトの色素を吸った油が分離してくるので、そこまで煮込んだら完成。

一気にとろみがついたのがわかる

これが8ヶ月の成果である。
見た目がかなり日本っぽいカレーになったと思う。

完成したカレー

ただこれが本当に美味しくて、そんなに辛くないけど、スパイスのかおりが強く出てきて、濃厚さと甘味で深い味になってくる。

そして元同居人氏も美味い美味いと食べてくれたので本当によかった。
かなり好評で他県の友達がわざわざ食べに来るくらいだったし、弟が泊まりにきた時に振る舞ったら「帰省したら作ってくれ!!!」と懇願されたので、自分の中でも一番自信のある俺カレーもとい、うちのカレーになった。

一度実家に帰った時に、同じカレーを作ったのだが、普段2人前3人前くらいなのに、10人分くらい作らないといけなかったので普通に失敗して、第二次カレー挫折事件になったのはまた別の話である。


つい先月、元同居人氏と映画を観に行った。
久しぶりに会ったので映画見る前にご飯を食べた。その時ふと思って、「俺の料理で一番美味しかった料理って何? 俺的にはカレーなんだけど」という話を振ってみた。

彼は、ちょっと考えてこう答えるのだった。
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