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変化する生き物のかなしみと希望『続・五稜郭残党伝』観劇レポ


クリスマスやクリスマスイブなんてただの日だ。カレンダーも赤くなってないし、うちのお墓は日蓮宗だし。そう言いながらもケーキを買い、心の片隅では「わたしにもトナカイに乗った白髭のオージサマが…」と期待する元幼女である。


心を躍らせながら、今年のイブは表題の舞台を見てきました。
温泉ドラゴン『続・五稜郭残党伝』

舞台や演劇が好きで、それなりに色々観て、今年からは出てみて、やはり舞台に携わっていきたいと決意を固くした今年だったので、わたしの生き方として正しい選択でした。


一言で言うと

好きです。


以下、どんだけ好きだったかわかる鬼のネタバレかつオタク気質素人の勝手な考察ですので、ご承知おきください。


五稜郭残党伝と北辰群盗録

五稜郭残党伝は、佐々木譲氏の小説が元になった作品で、2年前に温泉ドラゴンで舞台作品化されていました。その時に初めて観て、小劇場からこぼれ落ちそうなド迫力の役者陣とその逃走劇の持つメッセージに度肝を抜かれたのをよく覚えています。

そこからコロナ禍を経て2年後の今年、同じ佐々木譲氏の『北辰群盗録』が、シライケイタ氏により脚本化され、演出された今作。
前作と同じ蝦夷地、北海道を舞台に、『五稜郭残党伝』から少し後の、五稜郭の残党とアイヌ、内地の人間の繰り広げる複雑な関係性を丁寧に描写しています。


物語は、榎本武揚の敗戦・投降告白から始まる。
榎本武揚といえば、戊辰戦争の末期、箱館戦争で旧幕府軍を率い「蝦夷共和国」を事実上樹立した人物。その人物が「俺たち(旧幕府軍・共和国政権)は負けた。俺は投降するからお前たちに危害はないはずだ。もうあきらめてくれ。すまんかった」と部下たちに伝える。玉音放送みたいなものだろうか。
敗戦を室蘭まで伝えてくんろと指示を受ける矢島。しかし矢島は負けを認めたくないので榎本につっかかる。「本当にもう終わりなんですか?」
その態度に不穏なものを見た榎本は、連絡係を土壇場で兵頭に変える。兵藤はいいお返事をして出発したが、敗戦を伝えたのち姿をくらましたのだった。


それから5年後、すっかり落ちぶれて飲んだくれていた矢島の元に、新政府の参謀から「お前の元同僚の兵藤が怪しいことをしてるから討伐して来い、成功したら大尉にしてやる」という依頼があり、矢島はそれを引き受ける。

矢島を含む五稜郭の残党はあの時、共和国への理想を捨てざるを得なかった。そして、もとあった不平等な世の中に戻っていった。矢島はときに「賊軍」と呼ばれ、赦免はされたものの一部の藩士たちの中では差別を受けながら、俵担ぎのその日暮らしで生きるという君主制の恩恵をしっかり受けていた。

共和国の理想はあのとき「捨てざるを得なかった」
はずだった。

しかし、それをまだ追い求めている奴がいた。
全員でせーので捨てさせられたはずの理想を、5年後の今も頑なに追っていた者。蝦夷の各地に散った脱走兵や残党と、差別的扱いをされているアイヌ民族の人間で、本物の「共和国」を作ろうとしている者がいる。

それが、元同志の兵藤だった。

共に夢を追っていた2人の男が相対するまでの、空白の5年間を想像させられる。


暗転マジック


今作、暗転の使い方が絶妙でした。
まさに演出家と照明さんの阿吽の呼吸。でないと成立しない。絶対的な信頼を感じました。

たとえばブル転の時に兵藤と矢島がすれ違うところ。
実際は離れているからもちろん見えていないけど、目の中にきっと相手の姿が見えているんだろうなという演出。やっていることは、決して広くはない舞台で二人がすれ違う、ということだけなのに、逆にそこに距離を感じさせる照明や演者さんのお芝居に興奮しました。


惣六の「伏せろ」での暗転や、セリフ終わりでの暗転はどれも「転換」とは違う、例えば夜の闇だとか、群衆に紛れて見えなくなったとかそういう情景描写なので、暗転が多い、と言う印象は全く受けませんでした。


にしても惣六のあのシーンは、たしかにいつかみた西部劇のようで、のほほんと「うわ!!星だー!」とはしゃいでいた惣六のギャップにトゥンク……しつつ、八王子の家を売り払ってもう一度夢を追おうとはるばる北海道の山奥まで来て、憧れた先輩がどんどん押されて立つ瀬がなくなる様を見ている切なさが浮き彫りになった瞬間でした。兵藤、与助、弥平次以外の全員が反旗を翻し銃を構えている中、背中を丸めて硬直する惣六。彼は今日こうなることを知っていたのだろう。

共和国建国の希望は、薄れ、もう信じきれない。でも生田のように完全には捨てられない。

兵藤さん、御免

兵藤さん、頼む 

葛藤がごっちゃになった惣六が選んだのが、北海道ウエスタン(本人談)で、共和国建国の夢を運に託して散っていくのだった。

たまんね〜!!



伏線マジック


共和国騎兵隊として最初登場するメンバーの中には三人、帽子を被った隊員がいる。到着したばかりの田島惣六と、生田と棟方だ。

この生田と棟方が、もうずっと怪しい。顔が陰になってほぼ見えない。うん、どう見ても黒だ。

この二人は、五稜郭を知らない元庄内藩士で、兵藤俊作の噂を聞いて共和国騎兵隊に志願したものらしい。庄内藩といえば、戊辰戦争でこそ敗戦したものの、領民と藩主の親睦のあつい、比較的住みやすい地域だったはずだ。帽子を目深に被り、いつも少し輪から外れて酒を飲む二人。マルーシャやトチノキへの差別意識もある。このどう見ても腹に一物抱えてるだろうなという二人は、幾度も兵藤と意見がぶつかり、そして同じく帽子の惣六が、最終的に共和国騎兵隊の崩壊をもらたす。生田と棟方の二人が夢見た「理想の国」は、一体どんな国だったのだろう。何を目指して、共和国騎兵隊に参加していたのだろう。

意図してか意図せずか、最終的に帽子の3人が共和国騎兵隊の解体をもたらしたのだった。伏線?匂わせ?どっちでもいい。天晴れ。


役者かくあるべき


坂本さんの兵藤は、冷静に狂っていくというか、いや本人は全然狂ってないのだけど、榎本が戻ってくると信じる様子は「この世から浮き上がっている」と矢島に言われるほど、独特の亜人みがありました。前作の五稜郭残党伝の坂本さんとは全く違う色で、むしろこちらが真骨頂という気がしました。よく知らないのにすみません。


浮き上がるってのは難しくて、浮き上がろうと思ってる奴はただただサムい。「あの子って浮いてるよね」と言われるような、本当に浮き上がってる人は、信念を持っているんです。強すぎる信念の力で浮き上がってしまう。念力みたいなものなのかもしれない。
榎本が帰ってくると信じて熱弁するときの目の輝きは、共和国騎兵隊全盛期のみんなで北辰を見たあの時と変わらない。兵藤だけは変わらない。

だけどね、二回目のそれはパフォーマンスに近かったのかもしれない。
矢島がアジトに乗り込んできて話した時、共和国などもう実現しない、と矢島に言われた兵藤は
「ほんの少しも、そうは思わんのだ」と即答します。

ほんの少しも、そうは思わんのだ

これは、ほんの少し、そう思ってるから言うんではないかしら。強がって、まるで自分に言い聞かせるためのパフォーマンスのような、絶妙なセリフです。

そうしてそのタイミングで、榎本に会ったのだから大丈夫だ、榎本が帰ってくる、という自分理論を繰り広げる。熱弁する兵藤の目はキラキラとしていて、今にもポロリと涙をこぼして泣きそうに見えた。鳥の羽がフワッと肩に落ちただけで「ウワーーン」と泣き出してしまいそうな、ギリギリの状態。
そうして北海道ウエスタンがあり、なんと騎兵隊の全員が死ぬ。ここの兵藤が弥平次を呼ぶところの沈黙、既に与助がしずかに死んでいるのがたまらん。この期に及んでギャーギャー騒がない兵藤も愛おしい。話が戻るけどアエトモがカリサンを撃ったときに「こいつ撃ちやがった!まじか!!」と動揺しまくる畑山もかわいかった。


こうやって役やストーリーに没入できるのは、近年では稀有なことだと思っています。ストーリーを邪魔するものはたくさんあります。わかりやすいのはセリフを噛むとか棒読みとか、顔が良すぎて、キメすぎて話が入ってこんとか、衣装が変すぎて集中できないとか、この時代にその靴は履いてない!!とか。

でもそういうのが本当に一切ない。すごい。余計な邪念が入ることなく芝居を楽しめた。わたしが役をかわいいかわいい言ってるのは、ちゃんと役が役として入ってきているからなんです。その体験だけでもわたしにはすてきなクリスマスプレゼントでした。シライサンタさんありがとうございます。


エッ あのー、すいません、これ何て


そしてクライマックス、

たったひとり、生き残った兵藤と矢島が相対する。

「矢島、共和国の夢は、幻なのか。
もう決して、見てはいけない夢なのか。
俺は一人なのか、矢島。」


ここに、世界中の切なさが詰め込まれていた。

矢島教えてくれよ、俺は一人なのか?
お前は、俺と一緒じゃないのか?という、
坂本さん演じる兵藤の哀しみが滲み出る。

そして

「お前の体の中にもう一滴も革命の血が流れていないというのなら、お前の手で俺の夢を断ち切ってくれ」


矢島

「俺の手でお前の幻を断ち切ってやる」


エッ
すみませーん
これ、なんていうBLですか???????😇



わたしは幸いBLは履修してないので見てる最中は発狂せずに済みましたが、BL大学歴史専攻の人たちはここにも萌えを見出して騒ぎ出しますよ。BL大学の人たちは「消しゴム×鉛筆」ですらBLとして研究してるんですからね。何を言ってるかわからない人はもう気にせず次に進んでください。


冗談はそこまでにして、
BL専攻じゃなくても、この男同士の、元同志の、思いやりゆえの一騎打ちはグッとくるものがあります。

長い立ち回りの結果、矢島によって致命傷を負った兵藤は「殺せ、お前の手で」と言う。
これは、
「殺せ、お前の手で(この革命の火種を)」
であり、だから矢島はトドメを刺そうとして
「共和国の妄想は危険すぎるのだ、根絶せねば!」と叫ぶ。自分に言い聞かせながら。


でも刺せない。
自分の中にまだ微かに燃える希望も、殺してしまうことになるからだ。

そしてそこに勘吾だ。この勘吾がすごい。


勘吾に痺れる、憧れるゥ

↑三夜連続ジョジョが嬉しくてこのテンションです



序盤、勘吾ら隊員が、共和国とはなんですかと矢島に聞くシーンがある。勘吾は北辰旗にはどんな意味があるのかと聞き、動かぬ北極星に思いを込めるのだと説明を受ける。そして共和国の理念とは、天子様のいない国をつくるということだと矢島が他の隊員に説明し、畑山が食い下がる。畑山が矢島に対して「賊軍」という差別発言を繰り返し口論になったところを、勘吾は止めにはいる。他の隊員は遠巻きに見るか薩摩側の意見に味方する中、勘吾は中立にいて、むしろ「賊軍という呼び方はいい気がしない」と矢島の肩を持つような発言もする。


中盤、矢島が兵藤を説得しに単独でアジトに訪問した後、「討伐は容易いが、革命の火種まで鎮火できるかはわからない」と言う。
その時、勘吾はそばでその話を聞いている。


最後、矢島と兵藤の一騎打ちのあと、トドメを刺しきれない矢島が苦しんでいるところに、勘吾が呼びにくる。
「どうしたんですか、矢島さん。みんな待ってますよ、早く行きましょう」

矢島はトドメを刺さずに去り、トチノキが引き上げた虫の息の兵藤の下に、火が灯る。



え、勘吾、何者!?!?


「どうしたんですか、矢島さん

みんな待ってますよ」


勘吾もじつは、共和国建国の理想を心密かに持っていた一人だったんでしょうか。

だから
「みんな(革命を)待ってますよ(だからもうトドメは刺さずに)早く行きましょう」
だと。

案の定、兵藤はまだ生きているうちに、トチノキに助けられ、火種は消えていないことを示唆して舞台は終わる。


だってね、勘吾、少し矢島の様子を見てから声かけるんですよ。トドメ刺せてないなーってわかるくらいの間です。もし勘吾が討伐一辺倒な人だったら、「なにしてるんすか!ちゃっちゃとトドメ刺してくださいよ!やらないならオレやりますよ!!!」って言うはずじゃないですか。

なのに、

「みんな待ってますよ」


たまんね〜〜〜〜〜〜〜〜〜




アレ!?!?

興奮してるのわたしだけカナ⁉️😅


まとめ(られるかはわからない)



いや、だからね、わたしはどうしても

「いやー、アツい男たちの話でした!」


とかそんな感想ではまとめられなかったんですよ。

たしかにアツいけど、アツい男たちだけど、温泉ドラゴンはその名の通りいつもアツくて、
でも今回の作品をみたら、わたしの中にはいちばん、かなしみと希望が残ったから。

人間は変わっていく生き物ですから、数年前に書いた文章を見て「こんなこと考えてたんだ!」と思うこともよくあります。それゆえに「おまえ変わったなぁ」とか「あなたが変わってないのよ」なんて夫婦喧嘩もよく聞きます。変わっていく生き物に伴う、いろんなかなしみ。それはいつの時代も共通して起こるイベントです。

今作も、そんなかわいそうな、かなしい、かわいい人間たちの命をかけた物語。

そして舞台は、明治2年の、ここではないどこかを探す人たち。生きづらい世の中を、この世に馴染めない人たちをも、なんとかしたいと思う人たち。
いまやエスディージーズだのダイバーシティだの横文字が謳われるようになったけれどまだ全然平等ではないこの世界で、どんどんこの国は貧しくなっていって、ツラい現実を目の当たりにしたり、大切な人が苦しんでいたり、居場所がどこにもないように感じる時。他国が羨ましく思えて、「このままじゃ未来がない。この国を変えたい」と本気で思い、選挙に初めて行った若者も多かった今年。150年近く時は経ったけど、いまの若者の中に、この頃と同じ熱を感じることがあります。

共和制という、身分や貧富の差のない世の中を夢見る思想は、歴史上の出来事として片付けられるものではない。もちろん共和国を建てることにはならないかもしれないけど、それに近い思想の台頭は、すぐそばまで迫っている気がするのです。

仲間を、全ての人を救いたいと言う思いで、たった一人になっても共和国をつくろうとした兵藤が、たった一人まともだったのかもしれない。
兵藤が浮き上がっているのではなく、この国はどこかおかしいと思いながら生きているわれわれみんなが狂っていて、地の底に沈んでいってるのだとしたら。


この物語がいま演じられて、たくさんの人の心に響くのなら、たった一つの希望の火種は、いまでも誰かの心で燃えているのだと思う。



私の心残りは

千秋楽までにこれを書ききれなかったことです😇

たくさんの人に見て欲しかった。とくに、今を生きる若い人に。

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次回作も楽しみです!!

ご清聴ありがとうございました!!


まりさ




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