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「デュアルモード・ソサエティ」経済モードと安全モードを切り替え、生きていく。

■これからの社会のあり方=デュアルモード・ソサエティ

「ニューノーマル」「新しい生活様式」 など新型コロナウイルス以降を語るキーワードはいくつかあるが、多摩大学大学院 名誉教授 田坂広志氏が提示する「デュアルモード・ソサエティ」はそのなかでも群を抜いてしっくりくる。自動車がスポーツモードとエコモードを搭載しているように、超感染症社会においては経済モードと安全モードをうまく切り分けながら生きていくということだ。通常は経済モードでバリバリ働く、感染症が広まりそうなタイミングでは安全モードに切り替えて人々の健康・安全を第一に社会全体がモードチェンジをするというものだ。

この「デュアルモード・ソサエティ」には2020年5月28日のオンラインイベントで出会った。モデレーターを務める日本総合研究所プリンシパル東博暢(あずま・ひろのぶ)氏より「明治維新的な動きを仕掛けようかと思っている」という連絡をいただいた時点で「このイベントには参加する」と決めたイベントだったのだが、山梨版CDC設立準備などこれからの超感染症社会にいち早く適用しそうな山梨県知事長崎幸太郎氏、デジタルファースト宣言を行った浜松市長鈴木康友氏、デジタル個人認証アプリ「xID」/ 加賀市版e-Residencyを検討している加賀市長宮元陸氏も登壇すると聞いてさらに期待が高まった。

The JSSA ONLINE MeetUp (2020年5月28日)
『ポストコロナ社会の新パラダイム/Withコロナの最前線で活躍する首長と新たな社会のビジョンを議論』
コロナショックは、社会・経済・文化・教育等あらゆる分野にパラダイムシフトが起こりつつあります。既に、各地域でスタートアップと連携し、特徴のあるNew Normal Serviceを市民に提供する準備が始まっています。ポストコロナの社会ビジョンとこれからの産業について語ります 。

株式会社日本総合研究所 プリンシパル 東博暢
多摩大学大学院 名誉教授 田坂広志氏
山梨県 知事 長崎幸太郎氏
浜松市 市長 鈴木康友氏
加賀市 市長 宮元陸氏

イベントでは浜松市長鈴木康友氏は「デジタルファースト宣言」の名の下にテクノロジースタートアップ協業/VC協業、浜松ORI-Project (Open Regional Project)オープンソース・データ連携のプロジェクトを大企業もスタートアップも含めて強力に推進していく姿を打ち出していた。ついていきたくなるリーダーとはこのことか、と浜松市民でもないのにワクワクしてしまう。

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また「人口減少により加賀市は消滅可能性都市と指摘されているのです」というショッキングな切り口からスタートした加賀市の宮元市長は、フィジカルな人口減少をデジタル市民にて増加するべく他拠点居住者向け「仮想市民(加賀市版e-residency)サービス」検討などを発表していた。

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山梨県の長崎知事はアグレッシブに「やまなしグリーンゾーン構想」として感染症に対して強靭な社会・経済の形成を目指すとして新たな認証マーク取得や山梨版CDCの設立準備などを発表しており、首都圏からのアクセスの良さも含めて経済と安全を双方満たしてくれる施策を紹介していた。

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このような首長のリーダーシップおよびテクノロジーを道具として使いこなし価値に変換している姿を見て非常にワクワクしているところに、輪を掛けて私をワクワクさせてくれたのが多摩大学大学院 名誉教授 田坂広志氏のスピーチだった。日本総合研究所を立ち上げに関わる1990年頃から異業種間連携による新規事業立ち上げを仕掛けてきた田坂広志氏は、感染症と共に生きる時代には企業の異業種連携だけではなく自治体も巻き込んだ新たな産業創出の仕組みが必要と述べる。その新規産業創出において「デュアルモード・ソサエティ」という新たな社会のあり方を考える必要があると訴えかける。ここからは田坂氏のイベント内での発言を記録したメモを共有していく。「デュアルモード・ソサエティ」が世に放たれた瞬間をなるべく生の言葉に忠実に共有したいからだ。

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以下田坂広志氏のイベントでの発言を興奮してメモした内容を記載していく。興奮故に私の思い込みもあるかもしれないが、イベントメモとして参考にしていただきたい。

田坂氏:私が日本総合研究所を立ち上げた1990年頃から、新規事業は一社のみでは立ち上げられない状況になっていました。異業種企業が連携し"商品生態系"なるものを生み出し、消費者に新たな価値を届ける異業種連携コンソーシアムを立ち上げてきました。ただ、これからは企業の異業種連携だけではダメで、地方自治体と組んだダイナミックな異業種連携で新規事業を立ち上げていく時代になると考えています。

さて、新規事業を立ち上げる際には「先を読むこと」が大事です。さて、これから先、時代はどのように変わっていくのでしょうか?
共通認識としてもっていただきたいのはポストコロナに新たなパラダイムが生まれるということ。現在の新型コロナウイルス第一波が収束したとしても第二波第三波は多いに来る可能性があり、新型コロナウイルスが収束した後もパンデミックは数年おきにやってくる時代を迎えることになります。
つまり、パンデミックに耐えうる社会にしていかなければいけないのです。

次に問うべきは「パンデミックに耐えうる社会はどうあるべきか?」です。本来こういうビジョンは政府が打ち出すべきかもしれないですが、現在の政府は将棋でいうところの2手先3手先しか見えてないようなので、本日の3自治体(山梨・浜松・加賀)のように先を見ている自治体の方々が、中央政府の発言を待つことなく、それぞれの地域からこれからの社会がどのように変わるべきかビジョンを持っていて行動されているのが望ましい形であると考えています。というのも自治体こそが地域特有の市民ニーズを把握しているからです。地域特有のものを第一優先にし、全国区で使える考えは自治体間で共有することによりポストコロナ社会は描いていけると考えております。

昨今「ニューノーマル 」という言葉もよく耳にします。政府は「ニューノーマル =新しい生活様式」と言っていますが、ニューノーマル が新しい生活様式だけに納まる話ではないことはビジネスパーソンであれば、お気づきのことでしょう。
「レストランでは人との間隔をとって座りましょう」というのが新しい生活様式として語られていますが、ビジネスパーソンであればすぐにわかるようにレストランが席を半分にしたら収入が半減しビジネスモデルとしては破綻します。急場凌ぎとしては良いかもしれないですが、将来的にはビジネスとして成り立たない策です。

それではビジネスモデルをどのように変更するべきなのか?外食産業、観光、医療などなどポストコロナは産業構造を変えていかなければいけません。例えばレストランでは、テイクアウトとデリバリーを使うのは当たり前になります。現在のコロナが収束したからテイクアウトやデリバリーをやめるレストランはないでしょう。

社会も政治も経済も文化もパラダイムが変わっていく。根本的なパラダイム展開が必要になるのです。急場を凌ぐために身を縮めているだけではダメです。根本からパラダイムがかわっていくので発想の転換が必要になります。

このような変容を想定しこれからの社会のあり方をあえて象徴的な言い方でお伝えすると、これからの社会は「デュアルモード・ソサエティ」となります。自動車にスポーツモード、エコモードがあるように、これからの社会が通常は「経済モード」で進んでいるが、感染症などのパンデミックがきた時には「安全モード」に切り替わるようなイメージです。

今回は初回だから緊急事態宣言で全てを止めたのは仕方がないと考えますが、これ以上の混乱は避けていきたいものです。これからは政府や自治体が状況にあわせて経済モードと安全モードを切り替え、それに対応できるようなビジネス構造にしていくべきかと考えます。
レストランは平常時の経済モードでは通常の経済活動を行い、安全モードのときにはデリバリーやテイクアウトを中心に行う。音楽もライブハウスだけではなく、オンラインでもライブを提供する準備をしておくのがこれからの「通常モード」と考えていくような流れが望ましいです。外食産業や音楽産業以外も同様の考え方でデュアルモードビジネスを考えていくべきでしょう。

あらゆるビジネスはこれからやってくるパンデミックに耐えられるようなビジネスにしていかなければなりません。しかも、市民のニーズが拾える自治体と組んで技術シードやビジネスアイディアを実社会で応用し、全国に広げていけるような流れが必要になってきます。地方自治体の個性を大切に、応用できるものを全国区に広めていく。長年新規事業開発をしてきた人間からするとそのような目でこれからのビジネス、新規事業のあり方を見ております。

なんと明確な旗を立ててくださるんだろう。これからのビジネスは「経済モード」と「安全モード」を考えて生み出していく。そして政府の方針を待つだけではなく、市民ニーズが拾える自治体と共に実装していく、というのが指針になってきそうだ。

新型コロナウイルスで政府の発表を聞き「一体どうしたらいいんだろう?」という上からの指示出しを待ちヤキモキした人は多いだろう。コロナウイルスの第二波第三波、また今後のパンデミックで同じヤキモキを繰り返さないために、自社の「デュアルモード・ビジネス=経済モード&安全モード双方で成立するビジネスモデル」を考えた上で、相乗効果を得られる自治体を探し、組むというアプローチもデュアルモード・ソサエティに生きる市民の意識としては必要かもしれない。なぜならデュアルモード・ソサエティでは"オンライン"も生活圏内に含まれるのでフィジカルな住民票とオンラインでの市民活動は必ずしも同一自治体でなくても良さそうであるのだから。

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