ラムネの中のビー玉
子どものころの記憶。
スーパーで買ってもらったラムネ。
飲み終えた瓶の中のビー玉がどうしても欲しくて、私はお父さんに「取り出して」とお願いした。
そうしたらお父さんは、「いいよ」と言ってラムネの瓶を受け取り、外に出ていった。そしてハンマーで割って、瓶を壊した。
とても大きな音がした。
ばりーん。がしゃーん。どん。
どんな音だったかはよく覚えていないけど、突然の大きな音に、とてもびっくりして怖くなった記憶がある。
戻ってきたお父さんは、にこにこと笑って私にまるくて透明なビー玉を差し出した。「お父さん上手に瓶を割ったから、ビー玉は傷ついていないよ」と得意そうだった。
私は、うれしそうな顔を必死で作って、お父さんから冷たいビー玉を受け取ったことを覚えている。
でも、せっかく触れることができた透明なビー玉を、どこにしまったのか、覚えていない。
違う。壊したかったんじゃない。
瓶を粉々にしてまで、このビー玉が欲しかったわけじゃない。
私はただ、瓶の中にある透明なビー玉を、いつまでも眺めていたかっただけだ。
飲み終えた瓶を捨てるなら、ビー玉だけでも手元に置いておきたかった。でも、だからといって瓶が粉々になればいいとは思っていなかった。
壊さなくちゃいけないなら、自分のものにならなくたってよかった。
無邪気に欲しがったことが引き起こした出来事。
ちょっとの恐怖と後悔。
遠い遠い、夏の記憶。
今もきっとそうだ。
私は何かを壊してまで、手に入れたいとは思わない。
願わくば、少しでも長く、眺めていられますように。
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