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#2 こどものおとなな包丁

 いつから料理をしてたったんだっけ?と振り返って、ぱっと思い浮かんだのが、小学校低学年の頃に初めて、調理器具のセットを買ってもらった時の風景だった。

 近所の大きなスーパーの調理器具売り場で、姉とお揃いで買ってもらった。
 持ち手のついてる真っ白の大きなケース、赤い留め具がふたつ。カチャカチャと開けると、きれいに調理器具が並んでいる。包丁、ピーラー、フライ返し、おたま…全部、柄のところが赤くて可愛かった。何より嬉しかったのは、その刃がセラミックじゃなくてちゃんとステンレスであることだった。

 こどもっぽいものがきらいなこどもだった私は、キティちゃんのプリントのTシャツ一枚着るのにとても覚悟がいった。幼稚園の頃、お遊戯会の練習でこども達が言うことを聞かないあまりに先生が出て行ってしまった時、追いかけて「それじゃ何も解決しないと思います」と言うようなこどもだった。思い出して、穴があったら入りたい。その穴が当時につながっているなら、もうちょっと素直な人でありなさいと諭したい。そんなこどもにゃ、セラミックの包丁なんかじゃ甘すぎて、鋭さが足りなかった。

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子供の頃にはじめて料理をした時から、今の一人暮らしと料理の関係、そして「陽の当たるキッチンのある家に住む」という夢までの話。毎週水曜日更新…

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