#1 陽の当たらないキッチン
私の実家のキッチンは、全然陽が当たらなかった。
私は、家族は好きだけれど、実家という空間がそんなに好きじゃなかった。実家の中で好きだったのは、畳の部屋の天井が砂壁だったことくらい。部屋を暗くして寝そべり、その砂壁の天井に懐中電灯を当てると、きらきら光る。しゅんっと素早く懐中電灯を動かして「流れ星!」なんて言ったり、きらきらの砂つぶをプラネタリウムみたいにして遊んでいた。その場所くらい。あとは、そんなに好きじゃなかった。
だから私は、20歳の頃に実家を出ている。時効だから言うが、家出スタイルで。「スタイル」ってなんだって感じで、そのくらい当時は単純なものじゃなかったけど、時効だから「スタイル」ってことにしておく。
このことについてはまた、もっともっと時が経って、もっともっと遠くなって、書けるようになれば書くが、人や事についてあるがままに受け止めるには、ある程度の距離というものが必要だと思っている。その距離は、精神的なものであったり、時間であったり、空間であったりする。きっと、ごく普通のことだ。私の場合には、単純に物理的な距離感が欲しくて実家を出た。出てみたら、なんだか全部そこそこに解決した気がしている。だから、時効もやってきてくれた。
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陽の当たるキッチンに帰るまで
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子供の頃にはじめて料理をした時から、今の一人暮らしと料理の関係、そして「陽の当たるキッチンのある家に住む」という夢までの話。毎週水曜日更新…
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