#3 塩ふる夜空
この夏は、打ち上げ花火を見ることはないんだろうなあとぼんやり思う。
とは言え、そもそも人混みが苦手だから、打ち上げ花火を見に行ったのなんて結構前。目にしたのだって、一昨年、お墓参りの後に神宮の花火にうっかり遭遇したのが最後。
でも、やっぱりいいんだよな。あの、どーんとお腹に振動が来る感じ。
からだごと感じるから、からだごと持っていかれちゃうんだけど。
そう、人混みも苦手だが、大きな嬉しいことがあまり得意じゃない。大きく寂しくなるから。
昔っから、楽しみな出来事が訪れるのが不安だった。始まったら終わっちゃうとばかり考えていた。
そう言いながら、毎日祭りみたいな仕事についたから、毎日祭りみたいなことにも慣れてきた。楽しみなことを仕事にしたら、心臓が保つように順応するらしい。あとは単純な実務とか責任感が、楽しさでいっぱいになんてさせてはくれない。脳みそとからだのバランス。舞台に立った後に燃え尽き症候群になることはもうずっとない。慣れることと馴染むことは似ていると思う。日常になれば、平たい仲間だ。
だけど年を重ねても、打ち上げ花火は年に一度だから、なかなか慣れが来ないかもしれない。
子供の頃は、夏になれば、家のベランダで打ち上げ花火を見ていた。
室内用の椅子をベランダに出すのが、ちょっと悪いことをしている気分でわくわくした。もっと悪いことに、その上に立って、打ち上げ花火を見る。
お供には、塩茹でしたとうもろこし。つぶつぶキラキラの塩をかけて、むしゃむしゃ食べながらキラキラの花火を見る。
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陽の当たるキッチンに帰るまで
子供の頃にはじめて料理をした時から、今の一人暮らしと料理の関係、そして「陽の当たるキッチンのある家に住む」という夢までの話。毎週水曜日更新…
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