見出し画像

あなたにとっての「名著」とは。

あなたにとっての「名著」を教えてください。

この質問をされたら、たぶん思考の沼に落ちる。
底なしの沼に。

つい最近、本屋で手にしたリーフレット。
NHK番組「100分de名著」の特別エッセイ。
内容はとても面白く、無料なのでぜひ読んでもらいたいと思うと同時に、冒頭の質問を自分に問いただしたくなったという状況である。

幼少期の「名著」

幼少期の頃に読み、今の自分の幹となった作品を挙げるならば、ハリーポッターシリーズの『ハリーポッターと不死鳥の騎士団』であり、ミヒャエル・エンデの『モモ』だろうか。

前者について。
百味ビーンズのハナクソ味にテンションあがってしまうくらいにはクソガキだったハリーたちが、名付け親を救うために敵勢力に素手で殴り込みをかけていくまでに成長する。

この成長度合いに胸が熱くなる。
ハリーと同年代であった私も中高生になり、自分の居場所が「社会」へ移行しつつある頃だっただけに、彼らから受けた影響は大きい。

後者は、実は時期を変えて、何度も読んだ本だ。
はじめては小学生の頃。そして中学、高校とステージを変える都度読み返して、そのたびに衝撃を受ける。

「負けるなモモ」という感情を抱きつつ読んだ小学生の夏休み。
登場人物の心情に目を向けつつ読んだ高校受験を控えた冬。
「時間」の価値に気づいた社会人1年目のゴールデンウィーク。

いつ読んでも新たな発見があり、頭を揺さぶられるような気持ちになるのは「名著」の条件かもしれない。

もうちょっと幅を広げてみる。

小説・エッセイ編

  • ハーモニー(伊藤計劃)

  • 深夜特急(沢木耕太郎)

まずは、伊藤計劃『ハーモニー』
読んだのは高校3年生の進路も決まった春。
東日本大震災の影響で、高校の卒業式も大学の入学式もなくなり、何かをしなくてはという想いに駆られて手に取った本。

誰も健康を害することもなく、正しい選択を常に与えられている社会は、とても理想的なものに見えた。
ただし、何もかもが管理されている社会の生きづらさが凝縮されている小説だと理解してからは、読中・読後の疲労感がとてつもなく大きかったと思う。
これ以降に読んだ、ジョージ・オーウェル『1984年』、マーがレッド・アトウッド『侍女の物語』、オルダス・ハクスリー『すばらしい新世界』よりも、衝撃は大きかった。

作中の世界と現実の世界を見比べて考えることをするようになったのはこの作品との出会いがあったように思う。
そういう意味で、自身の行動に変化を与えた本として「名著」と呼べるのかもしれない。

続いて、沢木耕太郎『深夜特急』
時代は1970年代。詳細な計画すら立てずに身一つで日本を飛び出した著者の紀行小説。
感想を一言でいうならば、事実は小説より奇なりということ。
だが、何もしないだけでは、その奇なる事実が起こることはない。
著者が考え、実際に動いたからこその結果であり、この本に著者のすべてが詰まっている。

社会調査の一つとして「参与観察」という調査法がある。著者自身が、研究対象となる社会の構成員として生活しながら記録を行うというものである。
こうした記録に基づく作品は、普段は見ることのできないことを気づかせてくれる側面もあれば、その場にいない読者に対してその世界での体験を提供してくれる。
本作『深夜特急』は、社会調査を目的として書かれた作品ではないが、実際にその世界に読者が行かなくても、リアリティある社会に没入できる環境を示してくれる作品であり、自分の知らない世界の楽しみ方を教えてくれた本であった。

本が自分の知らない未知の世界を与えてくれるものだと学べた意味では、自分の価値観を増やしてくれた本なので、自分にとっての「名著」と言ってもいいだろう。

実用書編

  • 薪を焚く(ラーシュ・ミッティング)

実用書でいえば、ラーシュ・ミッティングの『薪を焚く』
キャンプや登山といったアウトドアが好きな身としては、焚火にまつわる知識を身に着けようか、くらいの気持ちで手に取った本。
木材の種類、焚くまでに必要になる道具、ノルウェー人の暮らしの今昔、環境保全といった多様な側面から、ノルウェー人にとっての「薪」が緻密に語られている。

おそらく、日本人にとっての「米作り」を本にするとこんな感じになるんだろうな、という気がする。
その国や地域に根付いたものを紐解いていくと、とても簡単に語りつくせるものではないだろう。私たちの身の回りにあるもの一つをとっても、その一つ一つに深い歴史があるはずだ。

この本もある意味、自分に気づきを与えてくれたものといっていい。
そして、そんな知識を身に着けたからこそ、自身が焚火を行う際、もっと楽しめるようになった。
自身に気づきを与え、生活を豊かにしてくれるのも「名著」と数えてよいかもしれない。

おわりに

結論として、自分にとっての「名著」はたくさんある。
自分の行動に影響を与えた本、気づきを与えた本、なぜか心に残って離れない本。
今後も増えるだけ増えていき、絞るのは無理だろう。

絞ることに悩むよりは、「名著」が増えていくことを喜び、その理由を人に伝えられるようでありたい。

30歳を迎えても読みたい本は尽きない。
本をひとつ、またひとつと読み進めていくうちに、自分の蔵書は増えていくだろう。
そして、わたしの「名著」の棚に、本が少しずつ積み重なっていってほしい。

紹介した本

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?