根拠を超越するひと言の魔法

P202
彼女にはぼくを助けることができなかった。われわれがいちばん欲しいと思っているのは、ただしっかりと抱きとめてもらい……そして言ってもらうことなんだ。

……みんな(みんなというのはおかしなものさ、赤ちゃんのミルクだったり、パパの目だったり、寒い朝の音を立てて燃える薪だったり、フクロウだったり、学校の帰り道のいじめっ子だったり、ママの長い髪の毛だったり、こわがることだったり、寝室の壁のゆがんだ顔だったり、するんだからね)

……みんなそのうち、きっとよくなりますからね、って。


P210
「きょうはとても加減が悪くてね、どうにもだめなんだ」
ジョエルを迎えようと両手をひろげて立ち上がりながら、彼は言った。
「許しておくれよ、ジョエル」
そして鐘のようにさし迫った声でつけ加えた。
「ほら、お願いだ、ぼくの聞きたいあの言葉を聞かせておくれ」

ジョエルは思い出した。「みんな」と彼はやさしく言った。
「みんなそのうち、きっとよくなりますよ」

(「遠い声 遠い部屋」トルーマン・カポーティ 河野一郎 訳) 



★私からあなたへ
きっとあなたもこんな風にしっかり抱きとめて、やさしく言ってほしいんだ。
誰も言ってくれないのならば、私が言ってあげる。

「きっとなにもかもよくなりますよ」

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