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としまえん閉園に寄せて

2020年8月31日の夜9時に、
東京都練馬区の遊園地「としまえん」が閉園します。
94年という長きにわたり頑張ってきた遊園地でした。

「東京」は街の様子が目まぐるしく変わります。
それは都心だけのことではなく、23区の端っこの練馬でもそうで、
ついこの前まで畑だった場所に次々とマンションが建ち、
幼いころ何人もの友達が住んでいた団地は、
老朽化が進み取り壊されました。
生まれ育った街が常に変化していく。
そんな中で、黄色い電車の車窓から見える「としまえん」は、
とても貴重な、唯一といっていい「ふるさと」の象徴でした。

「ふるさと」と言われて人が思い浮かべるような、
山や、川や、田んぼがあるわけではありません。
いわゆる「ふるさと」の原風景ではないかもしれません。
それでも、「としまえん」が消えることは、
幼いころからずっと見ていた故郷の山が消えるのと同じくらいの、
それほどの痛みを感じる人間がここにいると、知ってほしかったのです。

黄色いケースに入った「木馬の会」会員証。
プールサイドに立った瞬間に鼻に入る甘いにおい。
たっぷり泳いだ空腹にしみるラーメンの味。
濡れた髪のまま乗ったブラワーエンジン。
アフリカ館の水のにおい。

エントランスを通ると、幼いころの私が前を駆けていきます。
「走るとあぶないよ」とかけた声に振り返ったその子は、私の娘。
手をしっかりつないで、もう一度見ると、それは私の孫。
そんな未来が、必ずあると思っていました。

そうあってほしい場所でした。

練馬で生まれ育った私にとって、
8月31日という日は、
これまで通り、
「夏休みが終わってしまう日」であると同時に、
「ふるさとがひとつ消えた日」になるでしょう。
おおげさではなく。

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