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松田青子『持続可能な魂の利用』

賛否両論ありそう(というか、否の方が多そう)な本なので、
あえて他の方のレビューや感想を一切見ないうちに、
自分が抱いた感想を残しておきたいと思います。
ネタバレに特に配慮していませんので、お気を付けください。

私自身の「思い込み」や「慣れ」を一つずつ
ぺりぺりと剥がしていってくれるような、そんな感覚になる作品でした。

当たり前だと思っていたことが、実は変。
そういうことって身の回りにあふれていると思います。
この作品ではっと気づかされたのは、
未来の女の子たちが、かつての女子高生が着ていた制服を着てみて、
「こんな動きにくい服を着せられて、性的なものとして見られるなんて、
 かわいそう。」
と涙をこぼすところ。
現代の私たちが、平安時代の貴族たちの恋について、
「女は待つばかりで、かわいそう。男ひどい。」
などと思うのと同じように、そうか、未来の子供たちは、
セーラー服を見て「かわいそう」と思うのかもしれません。

作中、現実とリンクする人物や事件が登場し、
「ほんとそう。」とうなずき共感すること度々。
「女性活躍推進」とかそれらしいことを掲げながら、
結局その社会を作るための議会に出席しているのはおじさんばかり。
国会中継を見ていると、あまりにおじさんばかりでぞっとします。
何時代だと。
こうしたもやもやが見事に言語化されていて、大変すっきりしました。
こう感じるということは私もこの世の中に怒りを抱いていたということでしょう。
そうこの作品は、潔いほどに徹底して「おじさん=悪」という立場を貫いています。
そして、最初から最後まで、ずっと全力で怒っています。

視点が偏っているとか、一方的だとか、
そういう批判ももしかしたらあるのかもしれないけど、
「この作品はこういう偏った視点で書かれている!」と、
最初にはっきり明言して、そのうえで振り切って書かれているのだから、
良いと思います。
思えば、新聞やTVなどのマスコミにも、
「うちは右寄りです」とか「左寄りです」とか立場はっきりさせて、
それぞれその立場から報道してほしいくらいです。
そうしたらもう少し、「真ん中」が見えるかもしれないと思うのです。

でも、「今の世の中おかしい!」と憤ると同時に、
そのおじさんたちが作った社会に、甘えている部分もある現実にも気づきます。
「おかしい」と声をあげるならばリスクも負わなければ。
もういい大人。いつまでも責任転嫁していてはいけない。
社会に対して責任持たなければ。
そんな決意を新たにいたしました。

作品として、最後「打ち切られたの?」と思うほど、
駆け足でプツンと終わってしまった感じが残念でした。
伏線も回収されないままの宙ぶらりん感は否めません。
ただそれを差し引いても、
世界の見方が変わるきっかけを与えてくれた本でした。

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