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「小さな冒険」

 かさこそと黄金色の銀杏の葉が音を立てる中をゴロゴロと車輪が通過していきます。車椅子に乗った小さな女の子の目がキラキラと輝いています。
 女の子の瞳いっぱいには大きな銀杏の木が映っています。

「あー。」

 初めて真近で見た黄金色の洪水に目を奪われて、思わず声を上げました。その子は重い障がいのため、上手く話すことが出来ません。時折単語で話すこともありますが、母親以外の人はなかなか聞き取ることができません。

 向こう側から通りがかった人が声をかけました。

「こんにちは。何歳?」

 上手く声の出せなかったその子は指で母親に伝えました。母親が代わりに答えます。

「10歳です」
「そう。大変ねー。頑張ってね」

 母親はあいまいに笑ってやり過ごしました。その子は不思議そうに聞いていました。

(何が大変なのかな? 変なことを言う人だな)

 けれどもすぐに忘れてしまいました。少し涼しくなった空気が気持ちよくて。空は高く真っ青で。下を流れる川の音が爽やかで。素敵な風景が瞳いっぱいに映し出されています。

やがて舗装された道はコンクリートのざらざらした道路に変わり、道の先は階段になっていました。

 父親が車椅子をかついで先に上がり、女の子は母親に支えてもらいながらゆっくりと階段を登ります。普通の子がさっさと登る数段の階段も女の子にとっては大冒険です。登り切ると湿った土の地面に変わっていました。土の上は力がいるので父親が車椅子を押します。

 さーっと風が通りました。サワサワという音に見上げた女の子は口をぽかんと開けました。
 頭上は色の洪水でした。赤、橙、朱に茜、萌黄、黄土、赤茶。

「いろんな色!」

 すごいね。色がいっぱいあるね。きれいすぎるよ。夢中になりながら指で母親に伝えます。

「来て良かった?」
「うん!」

 その先は車椅子ではもう行けません。女の子は父親に抱えられて階段を登りました。そこからは母親に支えられ、ゆっくりと歩きます。幸い地面は乾いていて、足を取られることなく歩くことが出来ました。 

 到着した場所には立派な三重塔が建っていました。鮮やかな朱色が紅葉の中にくっきりと建っています。それを見た途端、女の子がわーっ!と声を上げて泣き出してしまいました。

驚いた父親が何を言っても泣き止みません。途方に暮れたその時、母親が言いました。

「感動した?」
「うん!」

今日一番の笑顔が浮かんでいました。

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