#2 安心して!昔から大和撫子は”推し”に狂ってるよ!
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等身大の仏像をつくり、床におでこをつけて「『源氏物語』を全巻読ませて!」とお願いする狂気の少女時代を過ごした、藤原孝標女パイセン。
それから3年後、むすめパイセンのお願いが仏様に届いたのか、お父さんの任期が終わったので、京都に帰ることになりました。
京都の家に到着して早速、むすめパイセンはお母さんに物語をねだります。
お母さんは宮仕え(天皇や皇后にお仕えする超エリートOLさん)をしている親せきに手紙を書いてくれて、むすめパイセンは念願の物語を手に入れたのでした。
当時、紙は貴重ですし、印刷技術がないので、物語は手で書き写して、みんなで回し読みしてました。
そんな貴重なものはVIPしか持ってなかったんです。
昼も夜も夢中で読んだパイセンは「もっと読みたい!」と思うようになります。
当然ですよね。こちとら、等身大の仏像をつくって、毎日おでこを床にこすりつけてお祈りしたんです。
「ぜんぶの物語、出てこいや!」ってなりますよね。
14歳のとき、またも母が物語を用意してくれました。
しかも、ずっと読みたかった、日本文学史上最高の傑作と呼ばれる『源氏物語』!
のうちの、第5話『若紫』のみ!
残念! 全巻じゃない!!
しかし、この第5話は全54章ある『源氏物語』の中でも重要で、主人公のスーパーイケメン光源氏が、のちに最愛の妻になる紫の上ちゃんと初対面するんです!
むすめ「え? この先どうなっちゃうの!? 続きが気になる! 待って! その前に、光源氏さまの過去を詳しく知りたい!」
むすめパイセンが「もっと読みたい!」と思うのも当然ですよね。
現代の私たちだって、すごく面白いマンガやドラマを途中から観たら、第一話からさかのぼって追いたくなりますよね。
むすめパイセンは、京都の有名なお寺で、
むすめ「源氏物語を1話から最終話まで、すべて読ませてください!」
とだけ、ひたすらお願いします。
またしても、お願いが仏様に届いたのか、親せきのおばさんから『源氏物語』全巻&いろんな物語をプレゼントされて、天にも昇る気持ちになります。
(貴重な物語をたくさんプレゼントしてくれるなんて、このおばさん、いったい何者なんでしょうか……)
そんなパイセンの有頂天ぶりが伝わる有名な文がコチラ。
むすめ「今までは少しだけしか読めなくてイライラしていた『源氏物語』を、誰にも邪魔されずにドキドキしながら、一冊一冊取り出して読むときの気持ちといったら、楽しすぎて嬉しすぎて、みんなが憧れてるお后様の位なんてどうでもいいわ!」
平安時代の全乙女たちがなりたいと思っていたであろう、お后様の位を、
「后の位も何にかはせむ(=后の位なんて問題にならない)」
と言い切ったパイセンもすごいですけど、こんな風に思わせた『源氏物語』を書いた紫式部先生もすごいですよね。
このあと、『源氏物語』にどっぷりとハマったむすめパイセンは、
むすめ「私はまだ子どもだから綺麗じゃないけど、年頃になったら、すごく綺麗になって、髪も長くなって、光源氏様が愛した夕顔や薫様に愛された浮舟のようになるわ!」
と妄想しました。
光源氏が最も愛した紫の上や、たくさん出てくる高貴で美しい姫様ではなく、そこそこの身分でちょっと儚い感じの愛人になりたいと思うところが、パイセンの可愛らしいところ。
当時の結婚適齢期(十代後半~二十代前半)になっても、
むすめ「光源氏様みたいに、超セレブでイケメンでスタイルがいい男性が、一年に一回でいいから、私の家に通っていただけるようにしたいなあ。浮舟のように山の中にひっそりと隠れるように暮らして、お花や紅葉、月や雪をながめながら、しんみりと静かに毎日を過ごして、男性からの素晴らしいお手紙が来るのを待ちたい」
と本気で妄想。
謙虚のように見せかけて、結構わがままな願いをしちゃうパイセンです。
美しい自然に囲まれて、静かで丁寧な暮らしをしながら、1年に1回だけ、超セレブでイケメンの恋人が訪ねてきてくれる生活。
うーん……意外と幸せなのかも?
このあと、むすめパイセンは、「光源氏様みたいに、超セレブでイケメンでスタイルがいい男性」は、残念ながら現実には存在しないと知ります。
年老いた親の世話をしながら、世間に流されるまま、晩婚をして子育てをし、
むすめ「物語みたいなドラマ性のある人生じゃなかったわー。でも、夫は平凡だけど優しかったからいいのかもなー」
と、自分の二次元熱狂人生を振り返って、おさまるところにおさまるパイセンなのでした。
▼そんなパイセンの推し活をもっと詳しく知りたい方はコチラ。
次回は昔の乙女の「三次元推し活」について。
続きます。
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