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制服アップデート計画

白か黒のシャツに、グレーか黒のパンツ。新米バリスタとして働くわたしの制服は、現在このように構成されていてすべて自前である。これに支給されたエプロン。とってもシンプルだ。会社の規定で決まっている服装を、至極まっとうに着こなしております。

思えば、アルバイトを含め今まで経験してきた仕事の数だけ、「制服」があったのだと気付く。ひざ丈のスカートにパンプスのかっちりしたものや、コック服、白シャツにエプロン、着物で働いていたこともある。

今働いているお店は、型や色の規定はあるものの、わたしがこれまで働いてきた会社に比べると、わりと自由が利く方だと思う。とはいえ、採用が決まり(昨年の7月から勤務開始だった)エプロン以外は自前で揃えるとなると、それなりにコストがかかるんだよなぁ。洗い替えを考えると、単純に上下2セットずつは必要になってくる。それに新人の分際で服装をはみ出したくもないから、必然的に無難オブ無難なチョイスになるのは、まぁ当然の流れだろう。

そこでお世話になるのが、われらがユニクロ・ジーユー・無印の三大巨頭である。勤務開始前のさみしいお財布事情であっても、会社の規定を順守した「制服」を揃えることができた。私服でも大変お世話になっているブランドたちだが、入社前の限られた時間で働く服を揃えるときも、「ここに行けばなんとかなるだろう」という安心感。ほんとうに感謝感謝なのだ。

そんなこんなで、入社してから半年以上。週5日フルで働いているもんだから、最初に揃えた制服たちもさすがにくたびれてきている。シワになりにくいシャツを購入したから、ふだんの手入れはラクでかなり重宝しているものの、ポツポツと小さな毛玉ができてきた。……シャツって毛玉できるんだっけ。そろそろ買い替えが必要なのはまちがいない。

週5日着用する制服。単純に、着ている時間もひとに会う頻度も、べらぼうに多い服なのだ。「制服だから」と低予算で着まわしてきたが、すこし気分が上がる服装にアップデートするほうが快適なのでは?頭では分かっていたけれど、なかなか行動に移せずに時が過ぎていく。パパッと揃えた制服たちだから、シルエットも丈感も自分の骨格にフィットする感じではない。でも「仕事着だから」と、ちょっと諦めかけている。清潔感と会社の規定さえ保てていれば、だーれもわたしの服装なんて気にしないだろう。

制服に対してのこだわりを放棄してしばらく暮らしていたのだが、そんなとき1冊の本に出会って、「これやん!」と首がもげるほど頷いた。

この本は著者の安達茉莉子さんが、少しずつ生活を手入れする日常を綴ったエッセイである。

アルバイト先に簡単なドレスコードがあったという著者。お金もかけられないから、何の魅力もない服を着続け、「自己肯定感」がどんどん汚染されていったという。わたしが陥っていた状況と、そっくりだったのだ。

本のなかにこんな文章がある。

ドレスコードはあくまで店舗のブランドイメージ、統一感のためにやるものであり、そのなかで店員は生き生きと素敵な装いをすればいい。それは権利であるし、店舗にも活力を与える。

「私の生活改善運動」安達茉莉子・著 131ページ

ほんとにそうだよなぁ……と、深く共感。同時に、春からは制服を一新して心地いい服装で働いてみようと決意した。見て見ぬフリをしてきた日々の制服に、テコ入れしていくきっかけとなったのだ。

さっそく購入したのは、新しい白シャツ。

白シャツってシンプルなアイテムだからこそ、選ぶのが難しくないですか?これまで何度も失敗をしている。腰にくびれのあるデザインや、肩のラインがカチッとしたタイプは、致命的に似合わない。アラサー就活生が爆誕してしまう。だからこそ、入念に選ぶ必要があった。

自然素材のナチュラルな風合いは好きなのだが、髪質・肌質がマットだからか老けて見えるのが辛いところ。ナチュラルすぎず、テロテロしすぎず、適度なツヤのある生地がいい。既存のシャツと同じく、アイロンの必要がないイージーケアのシャツであることは譲れないポイントだ。

シルエットは、ややオーバーサイズで身体が泳ぐくらいが心地いい。わたしは節が目立つ骨格なので、肩のラインが落ちたゆったり目なシャツが好きだ。ふわっと着こなしてもいいし、パンツにインして引き締めてもいい。エプロンをするからあまり見えないとはいえ、気分で着方を変えてもいいのだ。襟のデザインは大きめのほうが、顔が小さく見える、気がする。

自分なりの小さなこだわりをクリアした、新しい白シャツ1枚。

いざ着用して仕事場に向かうと、やはり気分がまったくちがう。しょぼくれた制服でずるずると日々を過ごしていたが、妥協せずにアップデートの1歩を踏み出して、よかったなぁと思う。自分だけの納得感が実証できただけでも大きな成果だったのに、同僚の主婦さんに「襟のデザインかわいいねー!」とお褒めの言葉まで頂戴してしまった。反応、速い。でも素直に嬉しい。

お気に入りの白シャツに出会えたとはいえ、制服と私服はきっちりと分けたいのが、わたしのささやかなおしゃれ心である。けれども、この白シャツなら仕事終わりに買い物やカフェに気兼ねなく立ち寄れる。白シャツを起点に、日常がくるくると回り出す。

この春はアップデートした制服とともに、フットワーク軽く過ごしたいと思う。

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