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悪女を悪女たらしめるのは

 「黒革の手帖」「白夜行」「死にたくなったら電話して」など、稀代の悪女、と帯に言葉が入るような小説を10代後半の頃よく読んでいた。賢く冷徹な女性の思考を辿りたいという思いからだった。

 久しぶりに新しい悪女小説を読み終え、納得のいかない読後感を消化しきれない。

 なんといっても、主人公が魅力的でなかったように思う。現実味のある悲壮感のうえに築かれる、脆い強かさが足りなかった。
 そして、外見の描写が過分だったように感じる。主人公の美貌を説明しすぎず、その在り方から魅力や美しさをしらしめていくのが、悪女小説の良いところの一つなのに。

 悪女を悪女たらしめるのは、脆い強かさ、静かな気高さ、恐ろしいほどの賢さで、それらは小説において、邪悪さが見え隠れするが品位を保った言動で示されなければならない。
 育った環境、昔受けた屈辱、パーソナリティ障害とサイコパス傾向の高い人格など、悪女の背景は様々だが、覚悟など初めから決まっているという点で共通していると思う。手段を選ぶとか選ばないとかではないのだ。

 悪女が主役の小説のうち特に好きなのが、言わずと知れた「白夜行」の姉妹作、「幻夜」である。常人の想像をゆうに超えるヒロインの戦略とその実行の仕方、他者の操り方に辟易する。
 白夜行はTBSのドラマ版が本物だと思っている節があるので、書籍は幻夜のみしか手元にない。何より幻夜は、唐沢雪穂と桐原亮司を知る人にとって特別な小説だ。白夜行と幻夜ついて書き始めたら、一万字に到達してしまいそう。

 「悪女の品格」もとても好き。
 ライトでおしゃれな、新ジャンルの悪女小説だと思う。ヒロインのめぐみが、悪女なのに潔い性格で好感が持てる。めぐみが「君は悪女の品格を備えていない」と指摘される場面が印象的でおもしろかった。

 巧い悪女小説があればもっと読みたいが、今まで読んだ以上のものを期待するのは少しナンセンスなのかなとも思っている。

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