江國香織さん中毒の24歳。小説など、好きなことに関連したエッセイを書いています。内省の…

江國香織さん中毒の24歳。小説など、好きなことに関連したエッセイを書いています。内省の鬼と言われたことがあり、書いてあることはノンフィクションです。プリンセスになりたい。

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愛された女性の人生の象徴 | 江國香織「冷静と情熱のあいだ」

 「冷静と情熱のあいだ」のヒロインあおいには、身につまされる悲哀がある。彼女が底知れない痛みを抱えながら、最愛ではないが申し分のない恋人の庇護下で美しく静かに暮らす様子には、心をとらえられる。  作中、ジュエリーについての記述のなかに「愛された女性の人生の象徴」という言葉があり、かつてそれにひどく憧れた。  そしていま、ジュエリーは愛する人の存在を確かめるために身に着けると決めている。贈られたものでも、自分で買ったものでも。ジュエリーは肌に隙間なく身に着けられるから、愛を感

    • 夢で会うひとたちへの手紙

       いつもよりずっと長く眠り、途中で起きたとしてもまた眠ることを繰り返した日、夢の中で懐かしい人に会った。  夢の中はその人とかつて一緒に過ごした冬で、尖った寒さにもかかわらず色合いの美しい季節だった。  完璧な背格好、長い手足が映えるスーツ、切れ長の目で優しく笑いかけてくれる仕草。この人のことを懐かしく思うときが来るなんて、と思うほど当時夢中に恋をしていたので、ひどく寂しい気持ちになったのだけれど、また会えてよかった。もう会えないと思っていた。  夢の中で起こることなど現実

      • チョコレート依存だったころ

         チョコレート依存だったころ、私はひとりぼっちで、でもあらゆることに無知だったので怖いものなしだった。  当時親に相談もなしに上京してきたばかりで、私の田舎に売っているチョコレートが東京でもちゃんと売っていることに、なぜだか安心していた。  東京のはずれの町に住んでいて、信じられないほどお金はないけれど夢だけはあるというありきたりな状況で、そのときのわたしにはチョコレートが必要だった。  お気に入りは森永の板チョコで、一度に2枚食べたりしていたが、いまは一切食べなくなって

        • 追いかける生き方

           勉強不足で研究不足、追及不足だなと思うし、性格上惰性的な生き方をするのは難しいなと改めて気づいた。  孤独感や不安がぬぐえないときの私には、理想の自分を徹底して追求することで充足感を得るしか心の穴を埋める方法はないと気づく出来事があり、「足りないものを数えて追いかける生き方をやっぱりやめないでいよう」という意思が日に日に強くなっている。  ことに仕事やお金についてそう思っていて、限界を決めずにもっと常識を飛び越えて考えて、さらに貪欲でいたい。  華やかで特別な人生への憧

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          それは彼女の宿命で義務

           世界を手にした人の底知れない痛み、重責による苦悩をたった一人で受け止め、背負わなければならないひと。それは彼女の宿命で義務なので、それ以外の生き方は選べず、彼女がいる場所は絶望とも幸福ともとれる、でも確かに「淵」にいるに違いない、そういう女性の物語を書いてみたい。  何かにひどく囚われる生き方しかわからない人は、たくさんいると思う。そういう人たちを描き、遠い遠い現実感の希薄な世界観にもかかわらず、誰もがこうなりうる危うさに没入できるような話にできたらと思う。  そしてそ

          それは彼女の宿命で義務

          月の女神に

           こう在りたいと願う女性像を象徴するネックレスを持っている。  新月のモチーフにブラックダイヤモンドが詰め込まれた、美しいネックレス。月の女神の名前がつけられたこのネックレスの、繊細な静けさと征服されざる強かさに一目で虜になった。私はこう在りたかったのだ、と静かに、そして確かに思うような出会いだった。  過去が追いかけてきて、不安や恐れが心身を蝕むような日がどうしてもある。そういう日が数日前にもやってきて、その日私はこのネックレスを身につけていた。築き上げてきた信念が揺らい

          月の女神に

          美しく世界を捉えること(読んでくださる皆さまへ)

           最果タヒさんの詩がとても好きで、ふと読みたくなります。  つい最近発表された「一番星の詩」という作品を読んで脱帽しました。最果タヒさんの(信じられないことに)Instagramで読むことができます。  この詩のなかにある言葉は、考え、思いついて書かれているようなものではなく、最果タヒさんが見ている世界そのものなのだと気づくとき、自分の世界を見る目がどんなに稚拙か、どんなに貧相かを思い知ります。  でもそれは消極的な感情ではなく、まだまだ世界を美しく捉えられるということに

          美しく世界を捉えること(読んでくださる皆さまへ)

          お酒と人生の甘やかな記憶

           お酒を極端に嫌う賢い男友達に、「酒を飲むのは自分を律することのできていない証拠だ」と言われ、何もそんな言い方しなくてもいいじゃない、と腹が立ったが、言いたいことはわかるので気持ちを落ち着かせた。  言いたいことはわかるのだ。でもどんな芸術もお酒と切り離して語れないのだから、お酒は芸術と同様、人生を豊かにするものの一つだと信じている。ゴッホは禁断のお酒によって身を滅ぼしたのだった……とよぎるけれど、それでも。  お酒が人生の豊かさに深く関係するのは、必ず記憶が付随するから

          お酒と人生の甘やかな記憶

          うらやましいと思うならそちら側に行く、けど

           うらやましいと思うならそちら側に行く、というのが高校時代からの私のポリシーで、自分が生きやすくなるために重要なことだと思っている。  例えば、きれいな人がうらやましければお金(たくさん)と労力を使って努力すればいいし、お料理が上手にできてうらやましいなと思えば手間を惜しまず練習すればいいので、そうしてきた。  うらやましいと思っていたそちら側にいざ行ってみると、「なんだこんなもんなのか」と思うことばかりで、トゲトゲしていた生活も性格も少しは穏やかになった。何かをうらやま

          うらやましいと思うならそちら側に行く、けど

          言葉は運命になり、引き際に真価が問われる

           口にする言葉のひとつひとつが運命を決めていってしまう。  受け取る言葉についても同じで、ことに親しい人との関係において、そう切に思う。   どんなときも礼儀や愛をもって言葉を選べる人でありたいと思うとき、衿という人を決まって思い出す。決意が揺らいでしまったときも、必ず。  繰り返し読んで、頁をめくるときのかんじがやわらかくなってしまった「薔薇の木 琵琶の木 檸檬の木」という本の中に衿がいて、私は彼女を心底好きだと思う。その本には11人の女性が登場し、うち4人を特に好きで

          言葉は運命になり、引き際に真価が問われる

          リップはないけど、愛を込めて

           Capriciousという名前の、バニラの香りのするリップを持っている。  MACのリップで、あんなにも品の良いローズブラウンの色味は他にないだろうと思う。  capriciousは、「気まぐれな」「予測できない」という意味の形容詞で、「まさにお姉ちゃんにぴったりの名前」と言って、妹がプレゼントしてくれた。  妹は私を、「わがまま娘」なのだと言う。わがままな態度や気まぐれな態度をとるのはその人への甘えからだと思うので、私はきっと妹に大層甘えているのだろう。  ただ、妹には

          リップはないけど、愛を込めて

          憧れと自我

           「誰かや何かに憧れた瞬間、憧れられる人にはなれなくなる」とある人が言っていた。とても同意したけれど、でも特にある種の女性から憧れを奪ったら、大変なことになるだろうと思う。憧れは力だから。  江國作品の中の女性たちへの憧れがなければ、私は他人の物差しで自分や世界を測るようなつまらない人だっただろうし、言葉の美しさを知らないままだった。  それらはすなわち、世界が自分の目にこんなにも美しく映りうるということを知らないままだったであろうことを意味し、無論それは恐ろしい事態である

          憧れと自我

          逃避行

           逃避行へのあこがれが消えたら、どんなに楽だろうと思う。  それが何回目の恋であろうと、いつも思ってしまうのだ。「このひとが私と逃げてくれればいいのに」  嘘でも、言ってくれればそれでいいのだ。それがつなぎとめるための保険でも、ただの旅行のことをそう言ってくれるのでもかまわない。「一緒に逃げよう」とか「何もかもなかったことにできるから、そしたら二人でどこか遠くに行こう」とか。  みんな別に逃げたいと思っていないし、私を助け出そうとも思っていないから言ってくれないのだろうか

          逃避行

          雨の日、甘美な体験をくれる音楽

           雨の日に聴く音楽として最適なのが、バッハの無伴奏チェロ組曲。雷が鳴るようであればマタイ受難曲。雨が止む頃、クラシックに飽きたらTaylor Swiftと大抵決まっている。  雨音と調和し、相乗効果を生んでしまうのがチェロという楽器なのだと思う。チェロによってしか生まれない情緒が、確かにあるのだ。無伴奏チェロ組曲は、論理的な構成ではあれど曲調の振り幅が大きく、またあまりにも情感豊かなため、胸に迫りすぎてしまうときが多々ある。この組曲の密度が、雨の日にぴったりなのだろうと思う

          雨の日、甘美な体験をくれる音楽

          歴史以上のドラマチックはないので

           歴史以上にドラマチックなコンテンツはないだろうと思っており、大河ドラマについて語るとなると決まって熱がこもってしまう。  動乱の世のうちの数十年をぎゅっと凝縮しているので、ドラマチックなのは当たり前と言えば当たり前である。  今日は好きなことをつらつら書く日にしたい。  大河ドラマ史上、最も美しい登場人物は、「江〜姫たちの戦国〜」の、鈴木保奈美さん演じる市だと思う。(最もかっこいいのは「花燃ゆ」の吉田松陰。)  強く美しい女性、とよく聞くが、それに該当する人物に心当たり

          歴史以上のドラマチックはないので

          完璧をもたらしてくれた街

           恵比寿は、あまりにも特別な街だ。  恵比寿で働いていた当時、いろいろな人に出会った。中でも、信頼できる人たちに出会い、頼りにさせてもらえたのは得難い経験だった。後にも先にも、あんなにも誰かに助けを借りていたのはあの頃だけだった。  そこで出会ったある人の言葉を時々思い出す。「中途半端なやつが一番ダサいから」。壮絶な過去に裏打ちされた自身のサクセスストーリーの最後にそう言っていた。熱量の込もった、厳しい口調で。  恵比寿という街が特別な理由の一つだと思うが、「中途半端な」人

          完璧をもたらしてくれた街