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すべての芸術の頂点

 かつて、悲痛に暮れていた私が自分を救うためにできた唯一のことが、シャコンヌを聴くことだった。正式には「無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番 ニ短調 BWV 1004:第五曲 - V. シャコンヌ」

 私が最も愛する芸術は文学、次に建築だが、この楽曲がすべての芸術の至高だと信じて疑ったことがない。そして、そう確信する自分にしばしば動揺する。これ以上などきっとないと思えてしまうことに。

 特に、シェリングの演奏によるシャコンヌは常軌を逸している。覚悟して聴き始めなければならず、その覚悟は開始数十秒で意味を成さなくなる。
 シャコンヌの威力、あの興奮。官能的というより、官能そのもの。こんなことがあって良いものかと思う。

 約15分の楽曲の間、自分の心と体に起こる異変にいつも驚く。ただ夢中になってあの世界に連れて行かれるしかすべがなく、聴き終えてしばらくは麻薬的な陶酔の中で起き上がることすらできない。
 そして、最後に感じるのが優越。これを聴くことが出来る優越だけで生きていけるとすら思うことにたじろぐ。

 シャコンヌについて書くには、感性や語彙や、その他今の私には何もかもが足りないけれど、書いてしまった。あの音楽が私の血肉になればいいのにと、本気で思っている。

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