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【介護事例】EP4:身体表現性障害のTさん61歳

出会えた素敵な方々とのエピソード集

※個人情報でもあるため、年齢イニシャル等、変えられるところは多少変えています。

【訪問介護で出会ったTさん】

仮名・Tさん (男性)
年齢・61歳 (出会った当時)
要介護・失念、、恐らく障害認定あり
既往歴・身体表現性障害
ADL・自立
排泄・自立
嚥下・通常食
家族・同居:40代くらいの奥様

Tさんプロフィール

訪問介護で働いていた時、私が1番戸惑った、どう対応して良いのかわからなかったケアのTさん。
何が正解だったのかいまだにわからない。。
事業所としても前例がなく、元職場のベテランさんに聞いても前例がなく。
難しいケアであると同時に、刺激と学びを教えてくださったケアだと思う。

身体表現性障害って?

この「身体表現性障害」という障害を、私はTさんと出会って初めて知った。
どんな症状があるのかもわからず、ネットで調べた。


身体表現性障害
(しんたいひょうげんせいしょうがい、
英: somatic symptom disorder;
旧称: somatoform disorders)
身体表現性障害の分類には、身体疾患を示唆する身体症状を示すが、それが一般身体疾患、物質の直接的な作用、または他の精神障害によって完全には説明されないことを共通とした特徴とする個々の障害が含まれる

出典Wikipedia

う〜ん。
これだけじゃよくわからない、、、
他のサイトでも調べると、

身体の痛み(頭痛や腹痛など)、痺れが繰り返し出現するのだが、検査をしても異常無しと判断され疾患が認められない、心理的要因による障害とのこと。

体調は悪いと感じる、
痛みも感じる、
検査をしても異常なし、
だから痛み止めなどの薬では治せない、、というイメージだろうか。

Tさんは辛そうにしているのに、直接はその辛さを医師も薬も私達ヘルパーも取り除いてあげられない。。。

このTさんは他の訪問事業所で何社も断られ、
うちの事業所が引き受けたらしい。

一見、ADLは自立なので何を介助するのか謎だったが、奥様が限界で本人を説得してなんとか依頼をしてきたらしい。
自立なのに介助が必要な理由がお会いしてわかった。

身体ケアなのに触れてはいけないケア

ケアマネからのケアの依頼は、
・入浴介助(週2回)
・食事介助(週3回)
だった。

食事介助は週3回のみで、あとは奥様がやってくださっていた。
ちなみに入浴介助は最初の2回ほどできただけで、あとは入浴拒否の上、清拭NG。
頑張って更衣介助や髭剃り、爪切り実施となった。
ケアマネや奥様も、様々な事情をよく理解してくれていた。

まず、Tさんのケアに入るにあたり、お会いする前に注意点を伝えられた。

・女性ヘルパー限定
・ささやきボイスで話しかけること。
(普通の声、大声は絶対ダメ)
・歩くことなどの全ての動作を静寂に。
※女性ヘルパー限定の理由は、声の大きさとガサツではない静かな動きを求めるため。
(女性でもガサツ、声大きいはいるけどね)

私達は日常生活を送るにあたり、何も考えていないが何かしらと密着している。
この密着とは、「体と何かとが物理的に触れている」という意味。

例えば、
・ご飯を食べる時、手と箸が触れる。
・椅子に座る時、お尻と椅子が触れる。
・服を着る時、肌と服が触れる。
・歩く時、足の裏と床が触れる。
・シャワーの時、水と肌が触れる。
・体を洗う時、石鹸と肌が触れる。
・寝る時、体と布団が触れる。etc…..

これらを意識して生活したことなんて私はないな。。。

Tさんにとってこの「外からの刺激」が最大の敵。

例として、ご自身がお布団に寝る時。
ADLは自立だから1人で横になることができる。
ただ、座る瞬間とかゆっくーり座らないと布団の感覚が肌に伝わる時に刺激が凄いらしい。
私達が普段意識せずにしている行動が、Tさんにとっては刺激となってしまう。
だから、同じ空間にいる人はとにかくビックリさせてはいけないし、振動もダメ。

私達ヘルパーがケアをするにあたり、絶対厳守すべきこと。
・歩く時は、そろりそろりと。
・話す時は、ヒソヒソと。
・髭剃り、爪切り時、肌に直接道具をあてない。
・更衣介助の時、洋服が肌に触れぬよう介助する。

身体ケアなのに肌には触れないどころか、爪切り、髭剃りは道具を浮かせながら実施する技術が必要となる。
普通に考えて、爪切りも髭剃りは安全面から考えても触れないでやるのはどうなのかなと思いながらも、他の同僚ヘルパーはできてしまっていたから事業所としても問題定義しにくくなっていた。

ちなみに食事介助のケアは、ご自身で召し上がることができるのだが、お皿の上の食材の位置を変えていくお手伝いとなる。
↑文面だけじゃよく分かりづらいが。。。

食事配膳イメージ


あらかじめ一口大にカットされたパンを丸皿に盛り付け、Tさんがパンを取る時にお皿に手が触れぬようお皿からパンをはみ出させる。
囁きボイスでパンの位置を数ミリ単位で動かすよう指示が出されるため、食事量はこれだけなのに、1.5時間のケアである。
そして一口食べようとするごとに、「動かないでね」と微動だにしないよう忠告される。

食事ケアも入浴ケア(実質更衣介助ケアとなっていた)も、刺激を避けるため全てスロー動作となる。
失礼ながら、カメの方が動きが速いと思う。

身体表現性障害になったキッカケ

2LDKの団地マンション。
リビングの床に布団が敷かれていて寝ていた。

玄関のインターホンもびっくりしてしまうため、鳴らさずにお邪魔する入室方法だった。
(ご本人様がきちんと訪問時間は意識してくれている)

ここまで書いてきたことだけの印象だと、かなりクセのあるご利用者様だと思われてしまうが。
まあ、正直、神経を使うケアであったことは事実。
その反面、Tさんの人柄は穏やかで優しくもある。
そしてヘルパーって時間で動いているわけだが、Tさんにはその時間を気にしてくれる配慮がある。

結果的に、触れても大丈夫なケアではあるのだが、触れるたびに表情が曇る。

🕵️‍♂️
「今、触れましたね。少し今の刺激で体調が悪くなったから、少し話さないで待っていて」
と指摘を受け、Tさんは目を瞑りシーンとした時間が流れる。

触れるたびに、この「落ち着きタイム」を取られてしまうため、ケアをスムーズに進めるためにもできるだけ触れる回数は少なくしようとヘルパー側は努力してしまう。

一方、ヘルパーに徐々に慣れてきてくださり、少しずつだが話しをしてくれるようになった。
(ささやきボイス同士で会話)

そして、数ヶ月経ったころ。
外からの刺激が一切受け付けなくなった、この病気を診断されるきっかけを教えてくれた。

🕵️‍♂️
「昔、○○駅前で。前からスマホを見ながら歩いている人が私に気づかずにぶつかってきた。
自分は歩行器を使っていたから、うまくすぐに避けることができなかったのもある。
それがきっかけで、周りからの刺激が怖くなった。」

元々、Tさんが繊細な性格なのもあるだろう。
人とぶつかってしまうことは混雑している場所ならば、あり得るし想定できる。
ただ「ながらスマホをしていた」相手だったという、Tさんにとっては予期せぬ出来事にメンタルがやられてしまう人もいることを知った。

相手の立場に立って気持ちを考えること

日常生活をしていれば何かを無意識に触ったり触れたりすることが当たり前なわけで、それをいちいち気にしていたら生きづらい。

だからもう私からしてみたら、、、
Tさんの暮らしぶりを知った時の衝撃。
他人から見ても、どこをとってもTさんの生活、そのご家族が大変なのは一目瞭然であった。

前例もなくどうして良いかわからなかったけど、
この病気を分かろうとしたり、何を求めているのか話してみたり。
できること、できないことをやわらかに伝えつつ対応をしてみた。
何もしてあげられなかったかもしれないが、奥様1人の時間は少しだけでも作るお手伝いができたかと思う。

どう対応するのがベストだったんだろう。
今でもわからない。
今後また同じケースがあっても、自信は持てないなぁ。

最初は、正直言えば「神経を使う厄介なケア」に過ぎなかった。

でも、Tさんとの関係性が少しずつ出来上がってきてこの病気のきっかけを知ってからは、Tさんに同情してしまう自分がいた。
同情されたくはないのかもしれないが。
どこで人生が、考え方が変わるのかわからないし、自分にも起こりうる出来事だと思うようになった。

結果的に、、、Tさんは奥様とは離婚。
1人残されたTさんは施設へ入所となり、私達の訪問介護サービスは終了した。
Tさんも、奥様に感謝されていたからこその離婚承諾となったようだ。

物の捉え方や考え方、性格、気持ちの持ちようが影響しそうとはいえ、日常生活で起こるささいなことがきっかけで、人生180度変わってしまうことがあるのだと痛感した。

スマホの歩きながらの操作で、人の人生を変えてしまうことがあると思うと、少し大袈裟かもしれないが自分自身のささいな行動も気を遣わなければ。


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