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大切な何かのために

「大切な何かのために懸命に生きる人たちの、6つの物語」
私がこの本を手に取った理由はこの本の帯に惹かれたからということを思い出した。この言葉を見たときにどんな話なのだろうかと心が釘付けになったことを覚えています。風に舞いあがるビニールシートと書かれる表紙には青空の広がる雲と森のような景色が描かれています。きっとなにか大切なことを教えてくれるに違いないと思いレジに向かったのでした。

6つの短編小説からなっている作品で、私は特にこの本の題名にもなっている風に舞いあがるビニールシートという話が印象に残っています。
これは同じ国連機関で働く2人の男女の話です。死と隣り合わせのフィールドで難民を保護し支援するエドと東京で一般職員として働く里佳。読み終えたときに、2人の大切なものへの価値観の違いとそこに隠れた愛情に涙が自然と溢れました。

あなたが生きている中で大切にしてものは?

これは最後の解説で藤田香織さんが読み終えた私たちに問いかける一文です。私が大切にしているものは何だろう。少し考えて、私は「ご縁」なのかもしれないと思いました。今この瞬間にあるご縁はきっと私に必要なことを教えてくれるものだと思っています。人に限らず、本やあらゆるもの、景色や場所すべてに対して言えることです。

あなたは何を思い浮かべましたか?
大前提、私たちはひとりひとり、「大切にしているもの」や価値観は違います。私たちは他人同士、だからお互いに認め合い、受け入れることが必要になります。しかし、彼らはどうしてもお互いがそれを譲れずに、7年の夫婦生活を終えてしまいます。その離婚後に彼が訪れた難民キャンプで、突然の彼の死を知らされるのでした。離婚の決定打になった会話はとても痛々しくて、胸が苦しくなりました。物語が終わる前に彼の死因や家庭環境について少しずつ明らかになります。その時に今までの言動の理由がわかり、かなしさとどこかあたたかさを感じます。何とも言えないやるせない気持ちになるのです。そして最後に彼女はある選択をします。悲しみの中から立ち上がる凛とした力強さや逞しさが美しい。

風に舞いあがるビニールシート

ビニールシートが風に舞う。獰猛な一陣に翻り、揉まれ、煽られ、もみくゃになって宙を舞う。


引用:森絵都「風に舞いあがるビニールシート」259ページ(文春文庫・ 2009年4月10日発行)

作品の中で何度も「風に舞いあがるビニールシート」というこの言葉が登場します。
私はこの言葉に突然の風が吹いたときにただ見ているだけで何もできない自分へのやるせなさと、大切な何かを守りたいという強い意志を感じています。6つともただの素敵な話ではなく、それぞれ大切な何かを守るためにもがき苦しんで、それでも希望を見つけて一歩進む。そんな力強さをどうか見つけて欲しいです。あなたがこの本を読み終えたとき、自分らしさを受け入れて前を向いて生きていこうという力強さを分け与えてくれますように。


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