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人生のマジックアワーに想う。


23、4あたりって、今おもえば、人生のマジックアワーだったとおもうのよね。

私がこの前読んだ小説「明け方の若者たち」に、こんなセリフが出てくる。

23、4あたりというのは、大学を卒業して就職した頃。お金にも自分の時間にもゆとりが持てる、あの時だけの特別な時間。

まだ自分が何者かになれると夢見ていた頃。でも現実を突きつけられて、こんなはずじゃないと、もがいていた頃。

その時間こそ実は、人生のマジックアワーだったんじゃないか、久しぶりに飲んだ、主人公の親友はそんな言葉を口にする。

恋人がいて、親友がいて、自由で無責任で美しかった日々。そしてそれはやがて終わりを迎える。

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すごく胸が痛かった。まるで昔の私を見ているようで。

とはいえ、私は恋愛に溺れていたわけではなかったので、重なるのは自分は特別な何かになれると思い込んでいた青臭さだけれど。

でも、ここじゃないどこかへ行きたいと友達と旅行に明け暮れた日々や、妹とこんなはずじゃないと言い合いながら転職活動をした日々は、まさに人生のマジックアワーの中で過ごした時間だった。

結局、転職活動はうまくいかず、特別な何かになることはなかった。けれど結婚して出産し、夫と息子と暮らす今。平和と安心に満ちたこの美しい調和の日々を、私は心から愛している。

あの刺激に満ちた日々を振り返るには早すぎて、まだ見つめ返すことはできないけれど。でも確かにあれは、私の人生のマジックアワーだった。

物語の主人公は、あの頃を人生の最高潮だと言っていた。確かに若者ならではのヒリヒリするようなあの日々はもう二度と訪れないかもしれない。

けれど、これからの人生だって案外悪くない。バッターボックスに立ち続ければ、また人生は動き始める。マジックアワーを過ぎた日々は、穏やかな風を引き連れて、私たちの心を満たしていく。




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