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37.消失の惑星 

すごい本を読んでしまった。

遠い街、見知らぬ人が受けた傷。

その痛みは、あまりにも身近――

8月のある午後、ロシア東部のカムチャツカ半島の街で、幼い姉妹が行方不明になった。警察の捜査は難航し、事故か誘拐かもわからぬまま時ばかりが過ぎる。

失踪事件は、半島中の女性たちに影を落としてゆく。姉妹の母親、2人を最後に目撃した研究者、心配性の恋人に監視される大学生、自身も失踪した娘をもつ先住民族の母親……
ばらばらに生きてきた12人の女性の言葉がつながるとき、事件はふたたび動き出す。

カバーあらすじより

幼い姉妹が誘拐されたところから物語は始まるんだけど、なんとそのあとに続く話は姉妹の救出劇ではない。姉妹の失踪を軸に12人の女性の話がでてくる。

文学というのは、美しい景色をただ『美しい』と書いてはいけない。具体的な描写をもって読者に『美しい景色だ』と思わせないといけない、らしい。

このお話に出てくる女性はみな、『苦しい、つらい、悲しい』とは喋ってはいないし、心理描写としても出てこないのに、この苦しみや重苦しさや町の閉塞感が伝わってくるのはさすが。
悲しみがわっと押し寄せてくるというより、静かに、静かに自分に降り注ぐような感覚。これ、訳者もすごいんじゃなかろうか。悲しく苦しく重い気持ちを感じながら、なんて美しい文章なんだと思わせるこの訳。

カムチャッカ半島、まるで馴染みがない島であったのにモスクワよりよっぽど北海道に近い土地であった。海外文学でカニやイクラや鮭密猟やウニが出てくるのはロシアよね。

二月の話が辛かった。元夫を事故で亡くした女性の話。ラストの一文が印象的。

レヴミーラは生きる。生きなくてはならない。彼女がしてきたのはそういうことだった。ほかの者たちが生きられなかったときに、彼女は生きた。そこに喜びがないのだとしても。

220pより抜粋

私も最愛の夫が亡くなったとしても自殺はできない。喜びがなくても生きていくんだろうなと思う。

それぞれ別の女性の物語だが、出てくる登場人物はそれぞれ繋がっていく。最後、このまま姉妹は誘拐されたまま終わるのかと思いきや…。


生きててよかった〜〜〜!!!!!!!!!!!

本当、リリヤもアリョーナもソフィアも生きてて良かった!!!!!!!!ありがとう!!!!!!よかった!!!みんなも、安心して物語を読んでほしい。2人は無事だから。自分が子持ちだったら幼い姉妹が誘拐されて12ヶ月も失踪し、警察は役に立たず湾で溺れ死んでるんじゃないかと言われてる描写で読めなくなるよ。

八月に幼い姉妹が誘拐される物語から始まり、翌年八月に姉妹が見つかり物語が収束するのも綺麗。

読んでいて役だった『ロシア点描』。何気ない、『同じような外観の建物』『別荘(ダーチャ)』といった描写が『ロシアはソ連時代全く同じ建物住宅をばんばん作っていたな』とか『ロシア人はみんな別荘を郊外に持っていて、そこで畑作業や釣りをするのが日常』とか書いていたな!!ってわかって楽しかった。

読書の醍醐味〜!!!全く違う本を読んでいて、点と点が繋がる瞬間。

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