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奇妙な金曜日

(2020/03/13)
スージーと二人だけの穏やかな木曜日を終えて、翌日オフィスに行ってスタッフミーティングに参加すると青天の霹靂な出来事が起きた。

英国内のコロナウイルスの蔓延により、しばらくの間火曜日と金曜日のコミュニティ、そして対面のカウンセリングやケースワークサポートもお休みが決定したのであった。

昨日エリーは終日トレーニングを受けている最中や、その後夜の英国のコロナ対策のニュースを見て、免疫力が低下しているような脆弱なメンバーも抱えているRがコミュニティを継続して続けることは難しいのではないかと考えていたという。メンバーたちは、近いところに住んでいるわけでないからバスやら電車やらを乗り継いでRにやってくるわけで、その最中にも感染のリスクはある。そして我々は週2回ご飯作りをするのだが、小さい空間に集まってご飯を作ったり食べたりすることでの感染のリスクもある。
メンタルだけでなく、フィジカルに問題を抱えているメンバーが多い我々は、メンバーを危険に冒すわけにはいかない。誰もそのエリーの意見に反対することもなく、火・金のコミュニティは当面見合わせ、あとは基本的に電話でのサポートという基本方針が決定した。

その後、ミーティングを続けながら、エリーが理事たちの承認を得るためにメールを送り、メンバーにどういう文言でテクストを送ろうか、あれやこれや話す。
for the foreseeable futureとかって書き方はよくない、for nowと書いた方がノンネイティブのメンバーにとっては明確だろう、とか、
オンラインや電話等のサポートはするからcancelって言い方は正しくない等々、テクストの短い文面できちんと伝わって、最大限サポートするから安心してほしいというメッセージが伝わるように、エリーが少なくとも10回以上文面を直し、5回は全文声に出して確認した。最後の一文はTake care. With Love. だった。

金曜日のガーデンは大体14:30にセインズベリー(スーパーマーケット)でメインシェフとなる難民のメンバーと待ち合わせて買い物をすませてガーデンに行き、他のメンバーたちも大体昼過ぎからガーデンに向けて各自移動を開始する。だから12時までにはテクストを送らねばならない。

理事からの承認がおりて、アナがグループメッセージでテクストを送ってからも、これからどうするかの話し合いが続く。
まず、グループセッションのメンバーと、よくRを訪れるノングループメンバーの一覧表を作り、いつ誰がフォローの電話をして、どのようなアクションが必要なのか(例えば、ホームオフィスにレポーティングにいく日にち等)を書き込み、プライオリティ付けつつアクションプランを立てる。
昼からは一斉に、スタッフがフォローの電話をかけることになった。メンバーが孤独になったりしないよう、週に一度は手紙を送ったり、電話をかけたり、さらには臨時ニュースレターの発信などの案も飛び出した。家にいる間にできる、マインドフルネスのティップスなど。あとは、「金曜日はみんな何作った?」とレシピ案を送るとか。
Zoomなんか使えるだろうかどうだろうか、でもそもそもwifiないうちもあるかもしれない等々の意見が出る。

火曜日・金曜日のコミュニティ活動がなくなった分、スタッフ・ボランティアは時間ができるので、ファンド獲得のための、ケースワークスタディ等、腰を据えて色々取り組めるというポジティブな意見が目立った。メンバーの暗い話も多いが、できるだけ和気藹々とポジティブに物事を捉えようという空気が、Rの特徴だと思う。
その話をしている最中も、事務所の携帯にメンバーからの反応は続々と届き、そのたびにエリーが「○○がこう言っている!」と伝えてくる。この決定については、理解できるという反応がほとんどだ。

付き添いサポートについてはどうしようか、という議論もでる。ホームオフィスへの付き添い、裁判への付き添い、等重要なものは個別判断ということになる。
え、そもそもホームオフィスってクローズするんだっけ?という私の質問に、そもそも難民申請者が電車乗り継いでコロナの危険を犯してレポーティングしにいかないといけないのは、今の状況では難しいから、これはホームオフィスの上の方の人に話たり、他団体と協力したりしないといけないだろうとアナがいう。
まずは、直接ホームオフィスに言うべきかどうかも含めて、弁護士に相談だろうという結論になる。
他チャリティも同じようにサービスを停止し始めており、我々もまた他団体からの紹介が来ないようにウェブページにもお知らせを載せないといけない。

その後ケースワークミーティングに移ったが、いくつかの緊急対応が必要なケースの中に、出産したばかりのSが劣悪な環境(男性たちとのホームシェア、家もクリーンでない)にいるという話があった。彼女の住宅専門の弁護士は、長期休暇にでかけており、今アナができることはその事務所の他の弁護士に緊急だといってプッシュすることくらいなのだという。なんとも重苦しい空気になる。
少し希望が持てた話は、リバプールにディスパッチされたCの件で、彼がロンドンに戻れるようにリクエストを送っていたが、受理されて、ロンドンのどこかに住居があてがわれるという。思った以上に早い展開でちょっと驚いたが、いい知らせである。

昼ごはんを食べながら、あれやこれやコロナの話をする。イタリア時のアナもカミラもイタリアの友人や家族を心配している。
いつもは慌ただしく昼ごはんをたべ、ガーデンに出かけるのに、オフィスで皆電話かけたり作業したりして、夕方まで過ごし、
「ほんと奇妙だね」とお互い言い合う。
コロナが発生した時には、イギリスはまだ関係ないような感じだったのに、三ヶ月後にはこの有様である。

メンバーは皆、コミュニティの当面の活動停止に、好意的な感想を寄せてくれているが、2007年からずっと続いていた、火曜日・金曜日のコミュニティがないというのは、皆にいかなるインパクトを及ぼすのだろう。
Rは第二の家族だ、生きる希望だ、と思って通っているメンバーにとって、コミュニティと今までのようには繋がれないことが
精神的なダメージにならないように祈るばかりである。

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