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異質で美しいもの

(2019/05/12)
今、この文章を書きながらBGMで流しているのは、金曜日にルイスのライブに行った際にもらったデモテープ(をダウンロードしたもの)である。
金曜日、NGOでのオフィスワークとガーデンでのコミュニティディナー作りを終え、キャリーと一緒にルイスの誕生日ライブに行った。キャリーとルイスと私は、毎週火曜日にコミュニティーランチを作っている仲間である。ルイスは長身のスコティッシュのイケメンで、建築家でありながらミュージシャンという才能の塊みたいな男子で、Jという素敵な彼氏がいる。南アフリカ出身の、父母はイギリス人というキャリーは地方自治体に勤めるソーシャルワーカーで、でも臨床心理士の資格を持っていて、臨床心理士のキャリアを積むべくもっぱら転職活動中である。

キャリーより先に会場(パブの二階)についた私は、まだあまり人が来ていない会場を見て怯み、仕方なく近所のカフェでコーヒーを飲んでキャリーの到着を待った。キャリーのもうすぐつくわよ、のテキストはあんまりあてにならなくて、キャリーとともに会場に入ろうと思った私は、仕方なくパブの外の席でジンジャービールを飲んでいた。隣に座った細い黒人の人が、二階を覗いていた私に気づいたのか、ルイスの友達?と聞いてくる。そうだと言うと、「ルイスは今外で撮影しているよ」と教えてくれた。指差す先には、タンクトップにスコティッシュ衣装のキルトスカートを着て、アコーディオンを持ったルイスとカメラマン。黒人の彼はアメリカンイングリッシュだったから、アメリカ人かなと思ったらポルトガル出身で、彼の彼女がルイスの親戚なのだそう。ロンドンにある猫カフェのマネージャーをしているらしい。
しゃべっているうちにキャリーが到着して、ルイスのライブが始まった。

パブの二階の小さな会場には、白人やら、ちらほら黒人やら、アジア人は多分私だけだったけど、60代くらいの人もいて、とにかく色んな人がリラックスして座っていた。それぞれの小さな丸テーブルの上に紅色のキャンドルポットと、ビールや飲み物が沢山ある。
ポルトガル人の彼のガールフレンドが到着して、ルイスの家はミュージシャン一家で、お正月なんてすごいのよと、一家勢揃いで楽器を弾くのよと教えてくれた。ルイスのお父さんは厳しく彼を指導してたけど、後々にそれが活きているパターンね、と。

ルイスの音楽は、ジャンル分けするならばオルタナティブ・フォークとされているもので、スコティッシュの伝統音楽も取り入れながらルイスが作詞作曲して、アコーディオンを弾きながら歌う。

私は音楽に全く詳しくなくて、キャリーとポルトガル人の彼が話す音楽談義に全くついていけなかったし、ルイスのMCのジョークもよくわかんなかったけれど、彼の音楽にはぎゅっと心を掴まれた感触があった。繊細で美しい歌声とアコーディオンの音色は、私の聞いたことのない類の音楽だったけど、惹きこまれた、と自分でよくわかった。
きちんと理解できていないけれど、美しくて魅力的なもの、そこに絶対の価値があるのがわかるもの。


*****
濃い金曜日だった。
最近のモヤモヤのせいで朝起きてオフィスに行くのも若干億劫だった午前中を経て、オフィスからガーデンに移動して料理を作ろうとして、メンバーのSが土色の顔をしてガーデンのベンチに座っているのを発見して、ケイトが111にコールして医者に電話したのち結局救急車を呼び、Sが運ばれていった中でメンバーのTとともに心配しつつディナーを作り(ベジタリアン用のココナッツカレー的なものと、チキンとトマトの煮込み、クスクス)、終わってスタバでコーヒー飲んでたら白人の友達とコーヒーを飲んでたメンバーのAに呼び止められ、しばしおしゃべりしてメンバーのNGO以外の生活を伺い知った。ルイスのライブに行くバスの中で、ディレクターのエリーから、世界最大の資産運用会社からのファンド獲得の成功のニュースを聞き(私が手がけた一番大きな額のファンドレイジング、かつ初めての成功案件)、高揚感と達成感を味わったあとのルイスのライブ。キャリーの最近恋愛事情を聴きつつ、この何とも言えない異質感が心地よい空間を味わう。
いつか日本に帰ったときに、このイギリスの生活を物凄く懐かしく思う日が来るのだろう。


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