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チャリティで、金曜夜のお出かけ

先週の金曜日、いつもの通りコミュニティガーデンで皆でご飯を作って
(金曜は難民のメンバーが交代でメインシェフとなって、スタッフはそのアシストをする)、皆でご飯を食べたあと(その日はイランの炊き込みご飯&トマト野菜の煮込み&サラダだった)、メンバーの一人が出演している演劇を観にバスに乗ってロンドンブリッジまでお出かけをした。

開演は19:30、イズリントン地区からロンドンブリッジまで時間がかかるので、気持ち早めにガーデンを後にする。ケースワーカーのアナが、全員いるかどうかまるで小学校の先生のように人数を数えて、バスに全員乗っているとか、誰が乗れなくて現地で待ち合わせにしたとか忙しい。

夜にこうやってお出かけするのは珍しいので、皆心なしかウキウキしている。いい大人だけど、小学校の遠足のようだ。


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ロンドンブリッジについて、アナに連れられて劇場まで行く。劇は、”Welcome to the UK” というタイトルで、イギリスの難民政策を題材にしており、出演者はイラン、シリア、アルメニア、アフガニスタン、ジンバブエ、スーダン、ザンビアから来た難民か難民申請者である。スーダン出身の我々のメンバーWは、その出演者の一人である。

記憶がすでに曖昧で、出だしがなんだったのか忘れたのだが、冒頭で遊園地が登場する。難民申請者の一人は、そこでわたあめを売っている(本当は、難民申請者は働いてはいけないから、隠れてやっている)。風船が観客にも舞台上のアクターにも手渡され、あなたの夢はなんですか、と問われる。国から逃げてきてイギリスにやってきたばかりの人は、期待に胸を踊らせ、大きな大きな風船を膨らませる。舞台上にたくさんの風船が舞うのだが、彼らの難民申請の道のりは困難であることがその後色々と明らかになる。アルメニア人の彼女は、まだ見ぬ夫がイギリスの大きな豪邸で自分を待っていると信じているが、ホラーハウスのようなところに閉じ込められて囚われ、おそらく人身売買の被害にあったことをうかがわせる。

難民申請者たちは、難民申請が許可されるのを何年も何年も待っているが、出入国、難民申請等を司るHome Officeの役人は、奇妙な意地悪魔女のような感じで、ビンゴの玉を転がして難民申請者の運命を弄び、玉が出てきて自分の番号が呼ばれても、書類にミスがあるからまたきてという風に突き返される。申請書は多くの書類が必要とされ、馬鹿げたことに時には携帯のチャットの履歴の英訳まで要求される。書類が多すぎることを揶揄して、難民申請者がHome Officeの役人(魔女の子分の格好をしている)の口の中から紙を引っ張っても引っ張っても引っ張っても紙は途切れることがない。

ずっと待って待って、ようやく難民申請のインタビューがきたと思ったら、イカれた感じのシャーマンみたいな面接官がいて、なんで逃げてきたのか、大量虐殺があったり、レイプされたりしたのか、と聞く。シリアからきた彼が、"危険だったから”と答えると、一蹴される。

難民ステイタスが得られたと思ったら、28日以内に銀行口座開設して、住居を探し、ジョブセンターに登録しろ、生活保護を申請しろと言われるが、住居を確定しない限り銀行口座は開設できないしで、人々はホームレスになりかける(実際にそうなる人もいる)。難民政策が難民申請者にとって”Hostile environment” (過酷な環境)であること(これは今のUK政府の方針)がユーモアを散りばめられながら皮肉られる。
最終的に永住権を得るところまで到達しても、重箱の隅を突くような意地悪な問題ばかりがテストに出てくるが、ヘンリー王子と結婚した、メーガンはいとも簡単にパスしてしまう。

劇の後には、観客と出演者と演出家の間でQ&Aセッションが設けられていたのも印象的だった。
そこでは、この劇のプロットは、すべて実話であること、演出家と出演者の相互関係の中で様々に演出の工夫が生まれたことが明かされた。今現在も、難民たちの苦悩は続いているし、それが劇にうまく反映されているが、シリアスなメッセージはユーモアにくるまれ、たくさんの笑いが生まれることで、余計にメッセージがダイレクトに伝わってくる。
Q&Aが終わると、我々は皆、仲間であり演技を終えたWに駆け寄り、お礼と賛辞を次々に彼に述べる。演じ終えた彼は疲労の中にも生き生きとしていて、我々の団体以外にも、彼に素晴らしいコミュニティがあることがよく窺える。

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週末何する?というお決まりの会話をしながら皆と帰路につく。
政治的社会的な問題をユーモアでうまく伝えてくるイギリス流メッセージの伝え方が日本のそれとは全然違うこと(日本だったらメーガンをこんな風に舞台で風刺できるとは私には思えない)、Wがいきいきしてたこと、遠足みたいなのが楽しかったこと、いろいろぐるぐる思いながら、心地よい充実感と疲労感で眠りについた。


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