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コソボおじさん

(2019/04/26)
寿司屋のバイトは、相変わらず細々と続けている。ぴちぴちの学生じゃないし、将来飲食業をするわけでもないので、週3もするのは不毛だなと今月からは週2くらいに落ち着いている(さすがに週1にしようとしたらできなかった)。

お客が帰って掃除等すべてが終わる23時過ぎから、日本人シェフと日本人フロアスタッフは大体毎日みんな飲み始めるのだが(日本人以外のスタッフは仕事終わったらすぐ帰る)、”日本人的に”雰囲気を読んで、私も白湯を飲みながら座っているのだが、ここで話されることが昼間のNGOと対照的すぎて、割とクラクラすることが多い。日本人シェフ二人はイギリス永住権も持っているくらいイギリス生活は長く、他のフロアスタッフはワーホリの人か元ワーホリでヨーロピアンと結婚している人だ。英語は話せるし、海外にも慣れている人たちだから、”多文化”みたいなものに寛容なのかと思いきや、それが逆で結構コンサバなのが、私の驚きポイントである。

一昨日の驚き話は、「コソボおじさん」についてだった。一体何者かというと、コソボ出身の50歳くらいのおじさんが雇われているが、彼が非常に怠け者なのだ。地下で主に洗い物を担当し、シェフの手伝いも簡単にする(何か解凍したり、味噌汁の具を用意したりとか)。彼は1999年にイギリスに来たと言っていたから、間違いなくコソボ紛争の戦火を逃れてきた難民だったのだろう。週5日夜、寿司屋で簡単な仕事をしているのだが、すぐサボって携帯見てたり、私から見てもさしてやる気はない。でも話好きのいいおじさんではある。愛する妻と(パン屋で働いているのを見て一目惚れして結婚したらしい)、二人の子供がおり、最近引っ越しもして、車も持っている。

この日、シェフやスタッフが言ってたのは、「コソボおじさんは、本当だったらちゃんと働けるはずなのに、大して働きもせず、国から援助が出てて、下手すると自分たちよりいい暮らしをしていて、とんでもない。こういう人が出てくるから、難民なんて受け入れない方がよいし、だから日本が難民を受け入れないのはいいと思っているんだ」という意見だった。おおおお、すごいこと聞いてしまったと思っていたが、私はとりあえず黙っていた。そもそも、このコソボおじさん一人で難民全体について語るのはおかしいだろう。また、難民というのは、戦火があったり、国から政治犯等で追われてたり、集団的暴力を受けたり等で、生まれた国に戻ることができない状況の人たちのことであり、その人たちをどこかの国が受け入れなければ、それは彼らを死なすのと同じことなのだ。難民のおかれている状況への想像力や知識が全く足りてない。そして、イギリスは簡単に難民ステイタスを発行したりしてないし(EU内の難民申請のうち、イギリス内では6%しか難民申請はされていないし、去年も難民ステイタス等の正式な居住許可が出たのは約3割だけなのである)、生活保護だって申請はめちゃくちゃ厳しいけれど、とても生活するに足りる額ではないから、「国に頼っている」のイメージも、マスコミに踊らされている。

日本は幸いにして戦火はないし、日本パスポートは世界最強パスポートの一つで、いろんな国にビザなしで行くことが可能である。日本の中の格差は拡大しているけど、世界の中では恵まれた国民なのだろう。その意識なく、世界中で起きている未曾有の人災について(かつてないほど世界中には難民にあふれているのだ)、人間的な温かみのある考えが持てないという事実。そして、上流層みたいに差別的な言動を隠したりしないで(まあ日本はそうじゃない人も沢山いるけど)、ダイレクトに差別的表現が出てきちゃうところに、「ああこれが多分日本の大多数の人の意見なんだろうなあ」と思わざるを得ない。また、この海外で不安定な中サバイバルしているから余計に、ナショナリスト的になるのかなと思ったりしている。

難民に関する職場の人たちの考えを変えたりするのは難しそうだし(上記のことを除くと、人としても、プロとしても、素晴らしい人たちだと思う)この小さな店でそこまでする意義が私には感じられないので黙っているが、将来日本に帰った時に、このような人たちに沢山出くわして、戦わなければならない時もくるのだろう。
さて、そういう時にどうするのがいいのだろう、とモヤモヤ考えている。

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