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難民支援NGOでの小旅行 - 2日目

(2019/11/30)
朝8時、シャワーを浴びに、部屋で一番早く起きる。本当は夜に入りたかったのだけど、シャワーが壊れていて使えず、他にバスルームはないかと朝確認したら、ビンゴ!、目立たないところにあるバストイレにシャワーがあった。昨晩はインドネシア人のレイと私しかシャワーを所望しなかったので、これってアジアンな習慣なのか?と一人思う。

9時に予定通りエクササイズを始める。グラウンドフロアの小さな体育館のような所で、ドアを開けるとすぐそこは朝の緑が広がっている。タイチーの先生でもあるレイがリードする。細かく体を揺らすことからはじめ、だんだん大きく。呼吸に合わせて下から上に円を描くように手を広げたり、自分を柳に見立てて、柳が小川に触れるように体を湾曲させたり。自分の息で目の前の山を動かすイメージで手をストレッチしたり。途中でおくれてCRとOがやってくる。Cは自分はギリギリまで寝たいからエクササイズはしないけど、トルティージャを朝食に作るとミーティングで言っていた通り、やっぱりエクササイズには来ない。
レイの指示に合わせて、繊細なものの上を歩くが如く歩いて、踵が地面に触れる瞬間を感じたり。最後に自分で自分を軽く叩いてマッサージしたあと、お互いにマッサージをする。今他人に触られてもいいかどうか自分に向き合って考えて、目をつぶって嫌だと思う人は手を上げるようにとレイに言われる。ふむ、すごい配慮されてるな、と思いつつ、なんだか触られたくない気分だったので、一応手を上げてみる。レイを入れてちょうど5人、私以外がみんな叩きあってるのを眺めるけど、別に変な気はしない。

エクササイズを終えてリビングに戻ると、Cが何かを切ったりしている。「Trust me、美味しいトルティージャ作っているから」とCお決まり文句の”Trust me”。彼はいつも金曜日のガーデンでライスクッカーの番をしていて、ライスクッカーマスターとして知られているけど、誰も彼が料理しているのを見たことはない。11時にはセッションを始めないといけないので、各自自分ができる手伝いをする。コーヒーを入れる人、フルーツを切る人、野菜を切ってCの手伝いをする人、パンを切る人etc。そうこうしていると、巨大なトルティージャが出てくる。それぞれ好きなものを皿に盛る。私は卵好き、そしてトルティージャも大好物なのだが、彼の作ったものはお世辞抜きにすごい美味しい。思わずふた切れ目も取る。すごい美味しいと褒めると、Cは得意げだ。ほら、言っただろと。朝からトルティージャなんて気分じゃない、なんて言ってたCRもパンと一緒に食べている。アナとWは食後のおやつとばかり、ミューズリーを食べている。

そうこうしていると11時のセッションの時間になってくる。セッションは暖炉の前の机と椅子、ということでセッション中に中に入れないアナと私は、ランチの必要物資をとってもう一つのキッチンに向かう。

今日のお昼は、フラットペストリー三種類。トマトとフェタチーズ、かぼちゃとフェタチーズ、ほうれん草とマッシュルームとフェタチーズの組み合わせ。アナがサマーパーティーに持ってきたペストリーと同じものだ。ペストリーはすでにテスコで買ってるから、あとはいろんなものを切ってペストリーの上にのせて焼くだけ。そしてサラダを作る。なるほど、こんなにシンプルなのねと感心する。

Rのケースワーカーは二人いるけれど、もう一人のスージーのほうが親近感が強くわき個人的な話も結構してきたので、アナと二人きりはどうなんだろうと実はちょっと思っていた。で、野菜を切りながら、色々話しをする。なんでRに入ったのかとか、チャリティワークはなんで興味を持ったのか、とか。小さい頃から、国連に興味があって、大きくなったら働きたいと思っていたと。だから高校からアメリカに行ったし、イギリスの大学に進学したと。大学で、移民労働者のためのチャリティで活動してて、それでRを知ったと。大学にいる時に、国連が必ずしもいいことしてるわけじゃないと知って興味薄れちゃったけど、ソーシャルジャスティスのために活動したいというのは根本変わらないし、普通の会社で働く自分は全く想像できないらしい。

12:30近くになったが、意外と終わらず。なんで思ったより時間かかっちゃうのかなーとぼやくアナに、まあ、こんなもんだよねえと私。三種類のパイを皿に乗せ、昨夜のCRの豆煮込みも皿に乗せ、もりもりのランチ。1:30にタクシーがやってきて、鹿公園に向かう。途中通りすぎたハイストリートをみたメンバーは、あとでここにも行きたい、と言う。よくあるただの街な感じなのだけど。鹿公園につくと、広大な土地に、15,16世紀から続く大邸宅が建っている。まるでハリーポッターの中庭のようだ、とか口々に言いながら、建物の周りを散策して、ポーズをとって集合写真を撮ったりする。

鹿が思った以上にたくさんいて、そして彼らが結構可愛いことで、みんな鹿たちに向かってずんずん歩いていくが、鹿はそろりそろりと逃げていく。ウィキぺディアかなんかでこの鹿公園の項目を読んでいたエミリーが、日本の鹿もいる、という発見をする。Oが、この鹿たちには名前があるのかと言うから、エミリーが名前をつければいいと、あと好きな鹿を選ぼうと言う。角が立派な雄鹿は、クリスマスっぽいとか、クリーム色の鹿が可愛い、とかみんな各々勝手な意見を言っている。Cが、こんなに広大な土地があるから、難民はみんなここに住めばいいじゃないか、と言いだす。土地があまっているのに、なんで難民は追い出されたりしているのかと。確かに、何百人、何千人も住めそうなくらい広い土地である。Wは座り込んで、鹿と会話をしはじめる。

そのうち、街に行きたいとCRがいいだす。じゃあ街にいくか、とぞろぞろ歩きだす。公園の中の落ち葉は赤や黄色の色をしていて、これがもし来月だったら茶色だっただろう。街に着くと、タクシーのお迎えまで40分あったので、集合場所を決めて各自バラバラになる。といっても、女子組はCRの「チャリティーショップに行きたい」という案にのっかって、全員彼女に付いていく形になった。Oxfamはあるな、と私も気づいていたが、その他にも2つチャリティーショップを見つけたCRはよっぽどチャリティーショップが好きなようだ。洋服やら何やら、みんな熱心に見ている。CRは友達へのクリスマスプレゼントだといって、鹿の小さな置物を買っている。Oは、ぬいぐるみのところをのぞいて、そこに小さな赤ちゃんを発見すると、抱きかかえて、音を出して喜んでいる。私は買うものが特にないけれど小腹が空いたので、エミリーと一緒に後でみんなで分けるようにフェアトレードチョコレートを買ってみる。アナはオーガニックファームでいつも泥だらけになるから、パーカーみたいなのを探していて、£10で結構いいものが見つかったと喜び、エミリーにここでものを買っていいか確認する。

集合時間になり、3件目のチャリティを出ようとすると、CRがすごいこれいい香りだと買いたいと言う。でももう時間なので、諦めて集合場所に行く。タクシーは時間通りにこなくて、ああ今だったらあのオイルが買えるのに、とぼやくCRに、まあ、タイミングじゃなかったんじゃないと私は慰める。

宿につくとすぐに、今晩のシェフのWはファラフェル作りにとりかかる。ファラフェルとはひよこ豆のコロッケである。ミキサーを使ってペーストを作っていく。ちょっとだけスタッフミーティングをする、とレイがいい、部屋に4人で戻る。何か今のところ問題ないか、とエミリーが残り3人に聞く。誰も問題は感じてないし、むしろ非常にスムーズだ。レイが、Oがよくご飯を食べている、ということを指摘する。彼女は、Rの火曜日のランチではいつもほんの少ししか口にしてこなかったらしい。Oに特によい変化が見られるとエミリーもレイもいう。アナも、ここ最近のリトリートでCRはそんなにしゃべってなかったけれど、よくしゃべって前に出ていることに驚いたという。また、WとCとの諍いが表面に出てきていなくて、うまくやっているとのコメントも出て、諍いの話を知らなかった私はちょっと驚く。エミリーが、前回のリトリートに比べて、確実に楽だと話す。それは皆が「セラピューティカルマインド」を持っているからで、前回のようにセラピーを受けているメンバーに参加者を限っていない場合、このマインドを持っていない人たちも含まれてしまい、非常にマネージが困難なのだと話す。Therapeutical Mind、なるほどねえと思いながら、ミーティングを終える。
キッチンに戻り、Oと私はソース作りの手伝いをする。ヨーグルトにきゅうりと人参とニンニクをすりおろしたものを加える。アナはクスクスのサラダを作る。Wはファラフェルを成形する器具を持ってきていて、綺麗に丸まったファラフェルが次々と揚がっていく。

ちょっと手があいて、レイにTherapeutical mindについて質問する。なんとなく想像つくけど、それって一体なんなの、と。レイが、セラピューティカルマインドがあると、他人に共感できて、表面の背後のことまで思いをはせることができると説明する。例えば、誰かが怒ってたりするのに、怒りや非難で応答するのでなく、「きっと彼は孤独なんだろう、悲しんだろう」と背後の苦しみまで想像が及ぶのだと。グループセッションでいつも自分の内面だけでなく、他人のことも意識する訓練がなされているんだな、と私は理解した。

ファラフェルがお皿いっぱい揚がったところで、さあ、夕飯である。一口ファラフェルをほうばると、ふわっとスパイスが口に広がる。とても美味しい。ほんと、5つ星ホテルだねえと冗談をいう。毎食豪華すぎる。

すると突然電気が消え、ハッピーバースデーの歌が聞こえる。ん、誰かの誕生日とは聞いていない。ろうそくがたったファラフェルプレートが私の目の前に来る。みんな銀色の三角コーナーみたいな帽子をかぶっている。誕生日は1ヶ月前で、私は今年、誰にも誕生日を言わなかったし、FBからも誕生日表記を消したのだけれど、行きの電車の中で、次の誕生日は誰かという話になって、まりこは?って聞かれたので、うっかり10月と答えたのだ。それで、みんなから、「知らなかった、なんで言わなかった」みたいな反応をされたのを思い出した。まさかこうやって祝われるとは全く予期していなかった。びっくりする。ろうそくを消し、感極まってお礼を言う。すると、もっとハッピーバースデーソングを歌わないと、と”DJ C”が言いだす。スティービーワンダーのHappy Birthdayのサビの部分をアナのスピーカーで大音量にしてかけ始めると、みんなノリノリで体を揺らし始める。歌に合わせて、目の前にある、かぼちゃの置物だとか、ペンだとかを私にくれる真似をしだす。Wがその様子を動画におさめている。延々とつづくみんなのハッピーバースデイソング。こんな記憶に残る誕生日はないと、思う。

夕飯を終え、ファラフェルがお腹にたまって苦しいので、運動が必要だと誰かがいい、”DJ C”がアフリカンミュージックをかける。皆で動画を見ながら真似して踊る。Oがノリノリなので、Oの動きを皆で真似をする。このリトリートに来るまで私は彼女が笑っているのをあまり見たことがなかったのだけど、楽しそうに笑う可愛い女の子なんだ、ということがよくわかった。CもCRも、彼女を妹のように扱っている。彼女のことをベイビーだといい、Oがちょっと拗ねてみせたり。これなんの曲なのか、と聞くと、お金持ちの人たちの歌だというから皆でおかしくて笑う。

踊りつかれて、またカードゲームをする。UNOでなく、今度はBullshit GameというのやろうとWがいう。同じ数字のカードを二枚以上真ん中に裏返しておくのだが、次の番の人は前の人の数字よりも大きいものを出さないといけない。数字を言いながら真ん中にカードをおくのだが、嘘を言ってもいい。嘘だと思ったら誰かがBullshitとコールし、嘘だったら嘘を言った人が山場のカードを全部引き取る、嘘じゃなかったら、コールした人が引き取るというゲームだ。一番の勝者はPresident、敗者はAssholeとなる。アナは嘘を見抜くのが下手で負けまくってカードをとりまくっているし、レイは下手な嘘つきだ。CRは疲れたといって、隣のアナにカードを取らせたりしている。Bullshitのコールをするかどうかで毎回盛り上がる。突然、予想外に、Oが静かに勝者になり、皆驚く。え、いつの間に?Oはものすごく得意げである。
カードゲームでひとしきり盛り上がってみんなそろそろ就寝か、となる。CRは、通訳コースの宿題が、というから、Wとレイと私は残って彼女の宿題を助ける。異文化コミュニティの人がイギリスで生活するのに何が支障となるか、みたいな問いとか、あるソーシャルサービスでのシチュエーションを3つあげよ、とかたくさんあり、なかなか終わらない。ここまではやる、とCRは決めて
そこまでみんなで付き合ったあと、満足げな彼女とお休みをいい、2日目終了。

こんなに気持ちが充実する旅とは思わなかった、と心豊かに眠りにつく。


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