見出し画像

難民支援NGOでの小旅行- 1日目

(2019/11/29)
NGO「R」は年に2回、Retreat(静かな場所への隠遁、避難)を行う。その名の通り、ロンドンの喧騒を離れ、どこかの田舎の宿泊施設を借りて数泊する。一つはセラピーを主にしたリトリート、もう一つはアクティビティを主にしたリトリートで、今回私がメンバーとスタッフと一緒に行くことになったのはセラピーを主にしたリトリートだった。日常を離れ、自然の中で過ごすことで、メンバーの精神面には大きな効果があるとされ、ファンドをとって必ず行われる大切な行事である。
Rに関わり始めて約1年、スタッフもいくメンバーも大体知っているとは言え、寝食をともにし、ずっと一緒にいるというのは結構ストレスなのでは、といく前は結構心配していた。そして、前回のリトリートでは、メンバーの中で争いが起き、それをスタッフがうまくマネージできなかったことへの不満もあったことを知っていたから、行けるという嬉しさ半分、不安も半分といった気持ちだった。
そして直前に、セラピストが二人とも病気になったり、メンバーも半数がドロップし(弁護士とのアポだとか諸々)、開催も危ぶまれたが、メンバー4人(男女比2:2)に対し、セラピスト2人、ケースワーカー1人、そして私という歴代最小人数で2泊3日(これも当初は3泊だった)、Kentというロンドンから南に1時間行った田舎で過ごすことになった。

そして今自宅に戻り、旅を反芻している所なのだが、真っ先に思い浮かんだ言葉は”珠玉”だ。どの瞬間も宝石のように、素晴らしかった。帰りの電車の中で、セラピストのエミリーが「何が旅のハイライトだったか?」の言葉にみんなそれぞれ感想を言ったのだけど、Cが、「短かったけど、たくさんつまってて、どれも素晴らしかったから一つに絞れない」と言った通りだと思った。忘れ得ない、一生の思い出。どの瞬間をとってもキラキラしている宝物。

*****
初日は朝ロンドンのセントラルの駅で待ち合わせ、National Railで1時間電車の旅。ムードメーカーのCが、「ほら、ちゃんと時間通りに着いただろ」と得意げに話す。今回のメンバーの中でO(🚺)は新しいメンバーだ。私もあまりしゃべったことはない。まだRに溶け込めておらず、ちょっと暗い印象を私は持っていた。

駅で電車を待つ間、寒いからと輪になってちょっとエクササイズをする。人がいないからできるというのもあるが、なんともRらしい。電車の中で、私はスーダン出身のWの隣に座った。彼は、前々日に念願だったスタンダップコメディの初舞台を終えたところだったから、ケースワーカーのアナと一緒にどうだったかを聞く。彼は難民政策をトピックにした舞台に何度か出演していたが、アクターよりもコメディアンが目標のようで、スタンダップコメディのワークショップに参加したりして技術を学んできていた。一歩ずつ一歩ずつ、だとWはいう。まず初舞台で一つ経験を積んだから、また練習して、また次の舞台にのぞむんだと。いつも落ち着いていて、とてもポジティブなW。

Shorehamという駅について、宿泊先の古民家まで20分ほど歩く。駅の周りには何もなく、森の中の小道を抜ける。前日も雨が降っていたため、足元は激しくぬかるんでおり、靴は泥まみれになり、早速「田舎」の洗礼を受ける。ようやく古民家について中に入ると、古く美しい家の内装に皆から感嘆の声が漏れる。大きなリビングには暖炉があり、居心地のよさそうなソファ、その真上には大きな赤い提灯のようなランプがお団子のように三つ連なっている。

皆がベッドメイキング等している間にアナと二人でランチを作る。イタリア人の彼女は、オーガニックファームで野菜を育て方を学んでおり、育てた野菜を使ったお昼ご飯をいつもオフィスに持ってくる。素早く作れるもの、ということでソテーしたミニトマトにバジルペーストであえたパスタを作る。ランチを食べていると、”Big hands for the chef” と、Rおきまりの、シェフを讃える拍手が入る。皆で協力しながら皿洗いの後片付けをしていると、この2泊3日の我々の食料を持ったバンが到着する。収納スペースを素早く作り、8人分の食料をそこに収納する。食後のミーティングのために、紅茶とビスケットを用意する。Cは普通の紅茶でなく、レモン&ジンジャーが大好きなのは周知の事実なので、もちろんレモン&ジンジャーも用意する。この三日間、どうしたいか、ということと、守るべきルールのようなものを決める。夕飯作りについては、CR(🚺)とWがもともと作りたいと話していて、二人のいうレシピに沿って食品をオーダーしていたから、今日の夕飯はCR、明日はW。色々皆で協力する(特に皿洗いとご飯作り)ことについて合意。Cが、「皆で何かするときは、携帯を使わない」ということについて提案してくる。Wは暖炉の前に心地よい場所を見つけたので、自ら火の番をすると申し出る。朝9:00-9:30はエクササイズ、その後朝食。11:00-12:30はセラピーセッション。午後はアクティビティ、夕方からご飯作りということで、午後のアクティビティについて話し会う。事前に調べ物をした私は、Knole Parkという鹿がいる公園か、Emmetts Gardenというガーデンのどちらかがオプションであることを説明。皆が鹿が見たいということで、鹿公園に行くことに。では、初日の今日は夕方のCRのご飯作りまでは、付近を散歩する人は散歩して、出かけたくない人はステイするということで、今は散歩の気分じゃないというCRとその付き添いでスタッフのレイは残り、残りは付近の探索に出かけることにした。

外に出ると、イギリスらしい、どこまでも灰色の空と、原っぱが広がっていた。落ち葉の色は紅で、雨で少々湿っており、それも美しい。原っぱの中に突然丸いステージがあることを発見し、皆でちょっと踊ったり、ポーズを決めて写真を撮ってみる。高い草で覆われた原っぱを抜けると、小川があることをメンバーが発見する。小川には倒れた丸太がかかっていて、メンバーはそこを渡ったり写真を撮ったりした。Oも丸太でポーズを撮っている。またしばらく歩くと、木の薄い丸いステージが出てくる。自分の国のダンスは何か、という話になり、Wがスーダンのダンスを教えてくれる。本当は砂漠で、足で地面を蹴って砂ボコりを立てる感じなのだが、その真似で皆で葉っぱを上に撒き散らして音を立てながらくるくる回ってみる。次に、この夏にRを去ったアイリッシュのセラピストを偲んで、適当なアイリッシュダンスを踊ってみる。2人組で腕を組み、くるくる周り、次々とペアを変えていく。踊って笑って、そろそろ暗くなるからと帰路につく。宿ではすでに、今晩の夕飯の準備をしているCRがいて、いい匂いが立ち込めている。

キッチンは広いけれど、こんなには人はいらない・・ということで、残った者は暖炉の前の居心地のよいソファの前で、カードゲームを始める。私もレイと一緒に白ご飯の様子を見つつ参戦。UNO、ってどういうルールだったっけ?とか言いながら、だんだんみんな白熱してくる。+2、+4のカードが続いて災難が降りかかる人や、スキップされてしまったり。そうこうしていると、ご飯ができたとの声。メインはSeabass(スズキ)のムニエルのようなもの、そして豆のトマトシチュー煮混み。CRの魚料理はとても美味しいのだ。皆のお皿からあっという間にシーバスがなくなる。レイはインドネシアのピーナッツソースを家からもってきていて、それを白米の横に添える。これもめちゃくちゃ美味しい。そういえばと、誰一人として同じ国出身者がいない、という話になる。Multicultural familyだ、とかMulti-coloured familyだとメンバーが言い始める。イギリス人はエミリーだけなのだ。メンバー4人は、皆アフリカ出身ではあるが、国は違う。あとは、イタリア、イギリス、インドネシア、日本。Cが、Multicultural familyを題材に映画を作り、ハリウッドへ行こうとジョークを言う。

食後、居心地のよいソファで皆ゆるゆると座り、お茶を飲んだりする。そのうちアナが、ラベンダーと布をオフィスから持ってきたから、ラベンダー袋を作るか、クリスマスカードを作ろうと皆に提案する。Cは今日はもう寝る、といって部屋に帰り、Oも部屋に帰る。レイ、アナ、エミリーと私はラベンダー袋を作り始める。みんな思い思いの生地を選んでチクチクしながら、学校で家庭科があったとかどうだったか、みたいな話しをする。そのうちCRとWがやってきて、クリスマスカード作りを始める。なかなか可愛いカードが出来上がってくる。CRは最近言っている通訳のコースについて、いかに宿題が多いか、でも非常に有意義な内容であることを語り始める。それ行きたいわーと私は言うと、ホルボーンにあるから来たら、と誘ってくれる。CRの通訳学校のお金はケースワーカーがどこかからファンドをとってきたものである。本当は通訳のコースじゃなくて、他のコースだったはずだが、偶然が重なり、通訳のコースにいくことになり、非常に充実しているらしい。

Wはそのうち眠くなったらしく、自分の部屋でなく暖炉の前のソファで丸くなって寝始める。みんなそろそろ寝よう、ということでリトリート1日目は終了となった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?