それには何が書いてあるのかさっぱりわからなかったのだがわたしはそれをずっと持っていた
何が書いてあるかわかるものは
読んだら売ったり誰かに渡したりした
何が書いてあるかわからないものを持ち続けているということが
わたしにどう作用したのかわからないが
枕にして眠ったり
テーブルにしてスープをのせたり
ソリにして斜面を下ったこともあった
それを見つめているうち
別の場所へゆくこともあった
帰ってくるとしばらく
わたしはわたしが誰なのかわからない
隣で薪の火が燃えて
濡れた靴は干してあり
わたしはそれを握っているのだが
やはり
そこに何が書いてあるか
わからないままだった
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