見出し画像

Sound of Nairobi: ナイロビの音を拾い、ビートを、ヒートを掴む

カメルーンでのプロジェクトを終えて、3月にケニアの首都・ナイロビにやってきた。ナイロビについては国連関係の支部や本部があることくらいしか知らず、あまり下準備もしないまま出発日となってしまい、何を期待したら良いかも分からないままやってきたのだが、来てみて驚いた。

モダンな高層ビルにショッピングモール、温水プールとジム付きのマンション。移動はUberでどこにでも行けるし、近代的なスーパーも多い。おしゃれなギャラリーやカフェ、コワーキングスペースにも事欠かない。そして到着してから3週間というもの、現金を一度も使っていない。全ての決済がクレジットカードか、M-PESAという現地の電子決済システムを通して行われる。携帯の契約も素早く回線も良し。天候も、いかにもヨーロッパ人が好みそうなさっぱりとした涼しさ。これは正直、日本よりも暮らしやすい。

そんな感じでナイロビを快適に楽しんでいたらあっという間に日々が流れていくのだけれど、滞在するからには、今までのトーゴやカメルーンでのプロジェクトと同様に、何かしらのリサーチとプロジェクトを遂行したい。そこで見つけたのが、Sound of Nairobi、というナイロビ拠点のイニシアティブだ。

◉アフリカのこれまでのプロジェクトについてはこちら
・アフリカ各都市で進行中のスマートシティを訪ねる、リサーチキャラバンを始めました:https://note.com/mariko9012/n/nb42596866e7f
・カメルーン発の空間情報解析プラットフォーム。アフリカで空間情報を扱うということ:https://note.com/mariko9012/n/n23921d87b814

Sound of Nairobi、というイニシアティブ

SOUND OF NAIROBIは、ナイロビのサウンドスケープに関するデジタルアーカイブだ。誰でもプラットフォームにアクセス出来るだけでなく、自分で録音した音データを、地理情報と紐付けてアップロードすることができる。約450万人が住む大都市・ナイロビとそこに住む人々の暮らしを、音から観察し、解釈するという、面白いプロジェクトだ。

画像2

写真参照:https://soundofnairobi.net/

プロジェクトを構成するのは、DJ、エンジニア、ミュージシャンなど、さまざまな肩書きで活動するケニア人のアーティスト4人(Brian Muhia、 Kamwangi Njue、Sophia Bauer、Raphael Kariuki)。コレクティブとして、ナイロビのサウンドスケープのアーカイブやパフォーマンス、作曲活動、ワークショップなど、音と都市をテーマにさまざまな活動を行っている。主な活動内容は以下だ。

1. 都市の音を"コレクティブ"に聴き、録音するワークショップを通して、音を通した世界の理解を試みる

2. 音楽系の専門家だけでなく、建築家、アーバンデザイナー、環境活動家、エンジニア、アーティストなど分野を横断したコラボレーションを行い、音環境の可能性を探る

3. フィールドレコーディングの可能性を探り、人々のナレッジのシェアをする場としてサウンドアーカイブを捉える

そもそも私がこの活動に興味を持ったのは、私が共同代表を務める一般社団法人for Citiesにて、2月に池袋で行ったワークショップ「Urbanist School #1 Tokyo Rhythm Analysis」がきっかけだった。これからの「アーバニスト=都市の暮らしを創造していく人」に必要なスキルを身につけるための学びの場として、都市音楽家の田中堅大氏を案内人に、都市におけるリズム分析の手法を実践的に学ぶ企画だ。

画像1

写真撮影:Daisuke Murakami

ナイロビでも音をテーマにした都市系の活動はないか?そんな思いでGoogle検索したところ、Sound of Nairobiが真っ先にヒットした。音環境が、都市における生活の質にどのような影響をもたらすのか?周囲の音に耳を傾けることで、私たちは何を学ぶことが出来るのか?記憶の保存に、どのように音を使用できるか?音のアーカイブから、私たちは何を学ぶことが出来るのか?そんな問いをベースに活動を展開しているという。バイブスが合いそう。ピンときて連絡をしたら、すぐにポジティブな返事が返ってきた。

耳でなぞる地理:Ear Map Project

彼らの代表的な作品の一つに、聴覚を意識してナイロビの街を歩くことを促す「Ear Map」がある。エリア毎のナイロビの多様性、特に賑わうダウンタウン(CBD)を、耳から感じようというプロジェクトだ。

まち歩きマップは、視覚的に心地よいとか、行くお店があるとか、そんな基準でルートが選ばれることが多いけれど、「Ear Map」は、耳を基準にしたウォーキングルートを提案してくれる。一人で歩いてもいいし、グループで歩いてもいい。時間帯や季節が変わると、同じルートでも音が変わる。マップは誰でもダウンロード可能で、今後はナイロビの他のエリアや、他の街でも作成する予定だという。

政治的な盛り上がりも音で観測する

もう一つ紹介したい。彼らの最新のプロジェクトは、Sound Pressure Levelsだ。ケニアでは今年(2022年)の8月に大統領選挙がある。Sound Pressure Levelsプロジェクトは、ケニアにおける政治的な雰囲気をフィールドレコーディングを通してドキュメントするプロジェクトだ。

言葉やナラティブが政治権力の決定に大きな影響を及ばすのであれば、政治キャンペーンに関わる日常生活における音や声、ノイズといったものをドキュメントし分析することで、政治的・社会的"温度"のようなものを理解できるかもしれない。人々の家庭のテレビから流れるニュースの音。街頭演説。路面レストランからストリートに漏れ出すラジオの音。ナイロビの異なるエリアで、政治的な雰囲気は、音は、どのように変化するのか。それはどう人々の経験や行動に影響するのか。

未来の世代が、この時代の政治的背景を理解するのにも、こうしたデータは役立つはずだ。

私がナイロビでやる予定のこと

2月に池袋で開催したリズム分析(Rythm Analysis)のワークショップでは、オリジナルのツールキットを作り、レクチャー、フィールドワーク、ディスカッション、パフォーマンスを行った。ナイロビでは、都市の「音」や「リズム」を切り取る教育プログラムを、Sound of Nairobiチームと実行する予定だ。キックオフを5月の初旬に、最終成果は、7月あたりにナイジェリアのアートスペースで発表できたらと思っている。Sound Pressure Levelsプロジェクトのように、雰囲気やムード、熱、温度のようなものも集められたら嬉しい。

やりたいのは、東京とナイロビ(もしくは日本とケニア、という大きな枠組みでも良いかもしれない)の音を交換することで、”ここではないどこか別の場所”に対する想像力を、みんなで養うことだ。言葉だけでは分からない何かを伝えるために、音やリズム、という五感を使って想像力を働かせてみたいと思う。

建物を建てるときも、都市をデザインするときも、ロジックだけではなく、五感を通した意見を持ち合わるとより良い空間が生まれる。今回のSound of Nairobiとのコラボレーションでは、そんなことを提案していきたいと思っている。

ナイロビのインスピレーションあれこれ

ナイロビで見つけた、都市・建築・まちづくり関連の面白いトピックやインスピレーションは、私の運営するWebサイト「Traveling Circus of Urbanism」でまとめているのでぜひ興味がある人はぜひ(英語)。ナイロビ以外に訪れたアフリカの都市の情報もまとめています。



自分の足で稼いだ情報を無料で公開しています。参考になったという方は、ぜひサポートをお願いできると嬉しいです。